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2005年 7月11日
日本原子力技術協会

第47回相互評価(ピアレビュー)に参加頂いた
第三者オブザーバーのご意見・ご感想について

  2005年5月25日から5月27日の間、北海道電力(株)泊発電所(北海道古宇郡泊村)に対して実施したピアレビューにおいて、当協会の会員外から北海道大学名誉教授である大橋弘士氏に2日間(25日及び26日)にわたりオブザーバー参加頂きました。その際のご意見・ご感想が以下の通り取りまとめられましたので、ご紹介致します。

1.相互評価について

所長面談を観察する大橋氏(左から2人目)
(今回のレビューについて)
 レビューアとホスト側で実際の業務体験に基づいた活発な議論が行われ、レビューアは疑問に思っていることを本気で問いただし、ホスト側はこの質疑に対して臨機応変に且つ真正面から対応しているのを見て、大変素晴らしいと感じた。ホストの普段の原子力発電所の安全確保と信頼性向上への取り組みが真摯に行われている様子がよく伺われた。本音のやりとりが行われ、時にはレビューアとホストとの議論がぶつかり合うこともあり、この相互評価が極めて有効であることの証拠になっているのではないかと思った。

(レビューの効果)
 最近は事故のオンパレードで、中でも、JR西日本の脱線事故は最近では最大級の事故であった。この事故の直接的な原因は運転手がスピードを出し過ぎてカーブを曲がりきれなったことだが、そうせざるを得ない過密ダイヤを組んでいた組織が最終的な責任を取るべきであると言われている。技術や組織も人が作り人が使うのであるから、突き詰めていくと事故原因は人にあるという人もいるが、大切なことはヒューマンエラーを起こしにくいシステムを組織として作りあげておくということだ。今回の相互評価に参加して北海道電力が安全確保のシステム作りに真摯に取り組んでいることがよく分かった。“失敗は成功の母”というが、しなくていい失敗はしないことが大切であり、過去に発生した他所での失敗を我がことのように実感して自分の業務に役立てることが水平展開である。人は自らの経験からたくさんのことを学ぶが、直接経験しないことからも多くを学ぶと言われている。 事故防止の行動計画は大丈夫か、小さなトラブルを見逃してはいないか、トラブルは起きていないがウィークポイントと考えられる所はないか、各階層のリーダーがリーダーシップを発揮しやすい体制になっているか、電力自由化へ
書類確認に参加する大橋氏(右端)
対処するためのコスト削減は適切に行われているか、普段のコミュニケーションは適切に行われているか、社員が元気の出る職場環境になっているか、原子炉に特有な問題にのみ集中していないか、などを個人レベルのみならず組織レベルで経営の分野も含めて自ら顧みることが大切ではないか。そのような契機を相互評価は与えているのでないかと感じた。

 業務の内容をよく理解しているレビューアが、個人の判断で行われる業務から組織の判断で行われる業務まで綿密に調査し評価するこのシステムは、原子力発電の安全確保に、ひいては原子力産業の健全な発展に貢献するものと思う。

 これを契機に発電所の安全に対する皆さんの意識が確認されて、原子力発電が益々社会に受け入れられるように努力されることを願っている。

(レビューの準備)
 相互評価の事前準備は大変だったろうと推察する。回を重ねるに従って事前準備に要する人手や時間が低減できる工夫をするとともに、肝心な点の手落ちが無いような方向に変えていくのも良いのかなと思った。

2.発電所への提言・感想

(提言)
 このレビューの結果を踏まえて、今後とも北海道電力社長の示達にある4項目の品質方針を実行され、適宜チェックしながら次のアクションに生かしていくことで泊発電所の安全性が確保され、本発電所の安心感が得られることを希望する。
(適切な組織運営)
 最近のJR西日本の鉄道事故などを見ると、事故やトラブル原因のかなりの部分が組織運用の不良であると言われており、組織運営としての安全に対するマネジメントシステムが重要であると考えている。安全に対する全社的あるいは泊発電所レベルでの品質目標の周知徹底、トラブル処理や不適合処理を含めた対応などの安全確保の為のマネジメントシステムの構築、組織運営が適切に行われていることは今後とも大変大切で意義のあることと感じた。
(現場確認)
 ヒューマンエラー防止対策に関して現場確認をした。大型の機器も整然と配置され、配管は系統別に細かく色分けされていた。また、キャスタやかごなどの小物までよく整理整頓され、清掃もよく行き届いており感心した。整理・整頓・清掃も安全確保の一端として役だっていると思う。
現場観察する大橋氏(手前)
(「現地」、「現物」、「現人」)

 「現地」、「現物」、「現人」が大切であると聞いたことがあるが、その通りであると思う。マネージャーが現場に足を運び、現物を直接見、現場の人の話に真摯に耳を傾けることは、安全確保に寄与するところが大変大きいと思う。

3.トラブル事例に学ぶ提言
(水平展開の重要性)
 自然界に安定に存在する鉄鉱石やボーキサイトは鉄やアルミニウムの酸化物であり、我々はこれにエネルギーを加えて金属を取り出している。隙あらば元の状態に戻ろうとするのが金属腐食であり、水の流れと同じく自然な事象である。原子力における特徴的な腐食形態に高温腐食があり、その典型がジルカロイである。これに対して配管系の腐食はジルカロイに比べると応力が高く、流れの乱れのある環境条件下におかれており、負荷応力で破壊する応力腐食割れ、繰り返し応力の場で破壊する腐食疲労、高速の流れの条件で発生するエロージョン/コロージョン等がある。 美浜3号機事故は、オリフィスで絞られた高速の流れによるエロージョン/コロージョンであった。1986年のサリー2号機での同様な事故は水平展開されていたはずのもので、十分咀嚼して自社の危機管理に役立たせることの重要性をよく示していると思う。泊発電所では事前にこの点に気づかれたことから、事なきを得られたと伺った。このような水平展開は他の分野でも応用して欲しいと思う。
 
(余裕の設計、安全対策への投資)
 安全上、無理のない余裕のある設計が重要だと考えている。この設計の中には技術面ばかりではなく経営面からの観点を含めた方がいいと思う。美浜3号機事故でも余寿命1年未満の配管の取替えを先送りした事例があったが、これも「無理」の一例と思われる。ただし、救いがあるのは一般的に点検すべき数は多いけれども、点検すべき部位が限られていることと余寿命評価をかなり正確に行うことができるなど技術的対応の余地があることが分かったことである。
 原子力発電は事業であるからスケジュールやコストを無視するわけにはいかない。社会に必要とされる電力を、適切なスケジュールと適正なコストで供給することが仕事である。これまでの事例から、一度事故が起こると発電できなかった電力料金の損失、復旧回復の直接的なコストは勿論、原子力に対する不信感が高まり原子力発電所の増設、MOX燃料の導入の遅れ、高レベル放射性廃棄物の処分問題解決の遅れなどに対する影響が発生し、これらをコスト計算した時の影響は多大なものになる。このような負の影響を「潜在失敗」として企業会計に導入してはどうかと畑村先生が「失敗学のすすめ」で述べておられる。安全対策への投資が結果として安いものであることは、種々の事例から証明されている通りである。
(弱点の再確認)
 原子力発電所の事故の可能性として教科書でまず挙げられるのは臨界事故と一次冷却系統の大破断事故だが、これまでに原子力発電所で起きた実際の事故やトラブル事例はそれ以外の所で、腐食現象に起因して起きているものが多いように思う。原子力特有の問題として核的問題に留意することは勿論重要であるが、原子力発電所は金属材料を多く使った大型で複雑なシステムなので腐食問題も念頭に置いて運転・保守を行うことが極めて大切である。この場合、過去の事故やトラブル事例に学ぶことは当然ではあるが、原子力発電所というシステム全体を原理的に考えて弱点と考えられる場所が更に無いかを再確認しながら、運転・保守を行っていくべきではないかと考えている。
以上

(別紙)

大橋 弘士氏プロフィール

 

○経歴
1938年 北海道生まれ
1964年 北海道大学大学院工学研究科修士課程応用化学専攻修了
北海道大学工学部助手、講師、助教授、カリフォルニア大学バークリー校客員研究員を経て
1989年 北海道大学工学部教授(原子工学科及び量子エネルギー工学専攻)
2001年

北海道大学名誉教授

現在は(株)エコニクス技術顧問・工学博士
○ 公 職
経済産業省原子力安全・保安院臨時委員( 1991年〜現在)
元日本学術会議核科学総合研究連絡委員会委員( 1995年〜2004年)
元日本原子力学会理事・編集委員長
日本原子力学会・腐食防食協会・日本分析化学会・各元北海道支部長

元北海道エネルギー問題委員会委員

元原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会地層処分研究開発第2次取りまとめ評価分科会委員(安全評価サブグループ主査)
○ 主な研究・業務経歴
原子炉水化学(原子炉水環境における鉄酸化物の生成と変質)
核燃料物質の化学と熱物性
放射性廃棄物管理(粘土鉱物における放射性物質の吸着と移行)

鉄陽電極を用いた汚染土壌の修復技術開発

○著 書
放射性廃棄物処分の基礎<地球化学的アプローチ>
( D. G. Brookins著,石原健彦氏と共訳)現代工学社 (1987・5)
新分析化学実験(共著)化学同人( 1989.11)
核燃料工学−現状と展望−(共著) (社)日本原子力学会(1993.11)
放射性廃棄物管理 日本の技術開発と計画(石原健彦氏と共編著)
(社)日本原子力産業会議 (1997.7)
プルトニウムの燃料工学(共著)(社)日本原子力学会 (1998.1)
環境の化学分析(共著)三共出版( 1998.3)
 
○受 賞

北海道分析化学功労賞( 2001年)

以上

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