不十分だった点 |
1) |
相互評価というものはこういうものかもしれないが、「注意事項はちゃんとあるか」とか、「安全のための道具立てがそろっているか」というふうなことを聞かれていたが、そういうことは役所や社内での検査で大体は手抜かりはないのではないか、分り切ったことを聞いてもあまり意味はないのではないか。
チェックしたいことはたくさんあるのだから、それがうまく活用されているかどうか、むしろ、ソフトの方に問題があるのではないかと思うのだが、そういうところをどうやって短時間でうまく質問で引き出すのか、そういう工夫が欲しい。
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2) |
表面的にピシッとできていれば安全が保てるわけではない、ということは、よくご承知のことだと思うが、今回のレビューではそういう表面的なことがそろっているかどうかに主として相互評価のねらいがあるような感じで不満を持った。
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3) |
「勤務形態が三直体制から二直体制になった、その結果(勤務)時間帯が…」という質問がレビューする側から出たが、「それではその結果、従業員はどういう風に気分が変わったのか、それが安全性の維持にプラスになったのか、なっていないのか」という質問がなかった。当然、そういう質問をすべきであったと思う。どう変わったかというだけでは不十分である。
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4) |
私が一番興味を持っていることは、社内、関連会社の方を含めてのコミュニケーションについてである。これは今回のレビューでも非常に力を入れている重点項目になっていたかと思う。例えば、東京電力の問題がなぜ起こったかというと、色々言われてはいるが、基本的には社内の風通しが悪いことである。つまり、社内でもなかなか下の人が思っていることを上に言わない、上に言っても、特定のチャンネルだけで情報が上がって閉鎖的になっている、あるいは、関連会社の人が言いたくてもいえないことがある。
ということで起こった問題の代表的な例のひとつは、「輸送キャスクのデータのごまかし」である。この問題は、NRCの型式証明になっていることをそっくり日本に移そうとした時、電力会社側の技術者がその型式証明よりも一桁高い精度を求めたことが遠因である。現場では(そのキャスクに充填する)固体のボロンと水素源である有機物とを混合する作業を行ったのだが、均一に混合することが難しく、必要のない有効数字を求められたこともあって、「なぜこのようなばかげた作業を強制されなくてはならないのか」という不満から、ごまかしが発生した。
これはJCOの事故が発生したときにも、10個の製品を均等にするための手間のかかるやり方を、バケツで混ぜたり貯蔵タンクを使ったりと、何年かかけて合理化していった発想と同じである。つまり、現場に不満があり、担当者が上司に「こんなばかげたことは止めさせて下さい」と言ったが、その社長に「わが社は電力会社に比べると"甲乙丙丁戊"の"戊"であり、"甲(電力会社) "が決めたことに文句は言えない」と言われ、その結果、仙台の河北新報に投書して問題が表に出た。非常に社内のコミュニケーションが悪いことが原因で、発生した問題である。
そのため、後に東京電力は社内に「風通し委員会」なるものを設置した。ところが、この委員会は、全電力会社でも「風土改革委員会」として設置されているが、東京電力ではまったく役に立っていない。ぜんぜん風土改革はできていない。そのため、この度のシュラウドの問題が起こった。
そのため、現場が抱えている悩みを上層部が上手に掬い上げる仕組みがあるか、協力会社が抱えている問題を如何に一緒に解決する努力をやっているかどうか、ということに私は一番興味がある。
心の悩みを聞く相談所を設けたとか、親密な関係を持っているとか、連帯感が生まれているとか、人間関係は良好だ、とかがレビューアからの質問への回答で出てきたが、それでうまくいっている証拠になるのだろうか、もう少し踏み込んだ質問が必要なのではないかと思う。
例えば、九州電力では原子力本部長である常務が現場に毎月出かけていき、関連会社の若い社員に「何か問題があるか」と問い掛けている。聞かれたほうは、最初は「えらい人から聞かれたが、話すと大変なことになるのではないか」と警戒して話さないが、毎月「一緒に考えよう、責任は私が取るから」と繰り返すことで、「ひょっとしたらこの人は本気で考えてくれるのかもしれない」と考えて話すようになる。そういう風にして、九州電力ではうまくいっている。
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5) |
保安規定が大幅に変わったときには勉強会を行う、管理者が現場で声をかけ愚痴も聞く、ということもあるということであり、これからは内部告発もどしどしやれ、と言われているということだが、では内部告発は減ったのか増えたのか、というような質問もなく、現場が本当はどのように感じているかがわからない。会社としてはよくやっているという感じを受けるが、働いている人がどのように受け取っているかということが、レビューでは分からなかった。そこまでやらないとレビューの意味はないと思う。
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6) |
技術の伝承については、トラブルの勉強会をやっている、職場懇談会で色々と話をする、等はなかなか良いことだと思うが、本当に伝承がうまくいっているという確認を得るまでの説明は得られなかった。もう少し質問をするべきである。
新聞記者は質問をすることが仕事であるが、質問にマニュアルがあるとやりやすいがやはり難しく、場数を踏まないといけない。やはりレビューアは経験を積む必要がある。一回だけで終わりにせず、経験者を育てていかないと徹底しない。
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7) |
現場を観察し、ヒューマンエラーがないかどうかを確認した。これも表面的には対策はうまくいっているように見えるが、実際には人間がやっていることであり、教育を受けていてもミスをすることはありうる。それゆえ、ミスがあるかないかと言う質問が必要であるが、それが出なかった。その質問の結果、「ミスがあった」という回答があれば、「そのミスを防ぐためにどのような対策をとっているか」という質問が続けて出るはずである。このレビューが表面的、形式的に行われているからこうなるのかという感じがする。
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8) |
中央制御室には色々な数字が出るが、必ずしもそこに出ない数字もあり、規定値から外れると警報も出るのだろう。しかし、働いている人の緊張感を維持するためには、データに出ていても自分で確認をさせることが有効であろう。以前、ある石油化学会社が徳山で大火災を起こしたが、そのとき事故を起こしていない三井石油化学と比較したところ、三井石油化学では中央制御室にデータが出ていても、現場を回らせ定期的に数字を書き込ませるなどの工夫を行い、「寝ていても仕事ができる」ような環境の中で、緊張感を維持するために意味の無い様な仕事をさせるという話を聞いた。徳山の会社では逆に非常に合理的に仕事をしていた。それが事故を起こすか起こさないかの差であるように感じた。
そういう工夫をしているかどうかの質問もして頂きたかった。
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9) |
余熱除去配管の破裂については、なぜそうなるまでそのままになっていたか、新しい発電炉にはついておらず、海外でも同じように水素がたまって破裂したという例がありながら、事故が起きるまではそのままになっていたか、なぜもっと早く対策が取れなかったのか。あの配管を取り外すためには安全審査にかけなくてはならない、そのために年月と人手が取られるということが原因でやらなかったのか、それとも気が付かなかったのか、ともかく、不必要な配管が残っていた、ということが事故を起こした原因である。
年に一回も使わない装置は、化学工場でも爆発事故の原因となる。頻繁に使い点検するような場所では、事故は起こらない。だから、めったに使わないものは社内の関心も薄く、そういうところに事故は集中するのだから、そういう観点からのレビューもやって頂きたかった。
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