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2003年10月23日

第34回相互評価(ピアレビュー)に参加頂いた
第三者オブザーバーのご意見・ご感想について

 2003年9月3日から5日の間、日揮(株)技術研究所(茨城県東茨城郡大洗町)に対して実施した第34回ピアレビューにおいて、NSネットの会員外から化学産業の専門家である大久保勝夫氏(元住友化学工業(株)常務理事)に2日間(3日及び4日)にわたりオブザーバー参加頂きました。その際のご意見・ご感想が以下の通り取りまとめられましたので、ご紹介致します。

1.はじめに

 ピアレビューにオブザーバーとして2日間参加させて頂き、感謝する。
 最初に私の自己紹介をさせて頂く。
私は、化学プラントのプラント災害や製造現場でのいろいろなトラブルに対してそれらの事故原因の究明や対策研究の業務に長年従事してきた。原子力関係についても、核燃料サイクルの中で化学的側面が強い再処理分野の腐食問題に関わってきた。
 今回のピアレビューでは私は2つの立場で参加させて頂いた。1つは私のキャリアパスでもある現場の事故克服に関わってきた立場であり、もう一つは同じ技術研究所長として研究所運営に携わった立場である。
 はじめに、現場の事故克服に関わってきた立場からピアレビューについての講評を、次に研究所運営に携わった立場から日揮さんの安全活動についての講評を述べる。

 

2.ピアレビューについて

 この活動が、非常に完成度の高い手法で運営されていることを拝見し、感心した。このような立派な活動にコメントするのは釈迦に説法であるが、長年、生産現場で防災や事故対策に関わってきた私の経験を踏まえて、次の4点について講評させて頂く。

1)安全への取り組み
 まず1つ目は、ピアレビューが対象とする安全への取り組みが、典型的な守りの活動であることにご留意を頂きたい。
所長面談を観察するオブザーバー(手前右)
  昔から"攻めるは易く、守りは難事"とよく言われる。これは、イラク戦争を見てもわかる。バクダットまで攻めるのは破竹の勢いだったが、目標を占領した後の守りでは大変苦労している。これにはそれなりの理由があり、攻める時には自分の得意な局面に全勢力を集中できるし、また、そのような攻めの状態では士気も当然のことながら高くなる。しかし、守りに回ると、どこを攻められるかわからないので、勢力を広く薄く配置せねばならないし、また、狙われるのも自分の一番弱いところを攻められる。守る立場では、自分が目標を決めるのではなく、相手に目標を選ばれるので、常に受け身に回る。そういう状況 では意欲も上がらない。安全への取り組みは、まさにそういった仕事である。
 安全活動をする上で一番大切な点は、自分の弱点がどこかを知ることである。孫子が言うように、"敵を知り、己を知れば百戦危うからず"である。しかし、己を知るということは、実際は、非常に難しい。ピアレビューにおいても、対象事業所の弱点を摘出する評価手法をさらにブラシュアップして頂き、また、被評価当事者の方々にも、それに気付いてもらえる仕組みを築き上げるのは、とても大事なことと思う。
 3項で日揮さんの安全活動についてコメントを申し上げるが、この技術研究所の設立以来の無災害運営という快挙でさえ、今後の安全確保に向けてのひたむきさという点では、それが、弱点にもなり得るとした背景をご理解願いたい。
 これとは逆に、災害の続発という過去の負の遺産をバネに、その反省を活かして大きく飛躍を遂げた例をデユポン社(米)の歴史の中に見ていきたい。
書類確認を観察するオブザーバー(奥)
  今、化学業界で経営トップを含めて広く行われている取り組みにレスポンシブル・ケア活動がある。企業の経営理念の基本を社会との共存共栄に置き、それを実現するための諸活動を、経営方針として具体化していこうという活動である。このきわめて今日的な活動を先駆的に始めたのがデユポン社である。皮肉なことに、同社の歴史は凄まじい労働災害とともにあった。火薬製造業として始まったデユポン社の社業(1801年)は、当時のアメリカの戦争需要(対英戦争、メキシコ戦争、西部開拓、南北戦争、スペイン戦争等)とともに大きく伸びて行った。しかし、火薬の製造には爆発災害がつきまとう。平時でも14ヶ月に1回の割合で爆発事故が発生し、毎回、平均3名が亡くなったといわれる。火薬需要が高まる戦時には事故はさらに多発し、南北戦争期(1861〜1865)には11回の爆発事故を起し、43名が死亡している。さらに、第一次世界大戦期(1914〜1919)では、生産第一で多数の未熟練作業員を現場へ投入したこともあって4年間で347名もの犠牲者を出すに到る。デユポン社の伝記(W.H.Carr)によると、"爆発事故の後片付けには鉄の胃袋と鋼の神経が必要であった…"と記されている。このような悲惨な災害への反省に立って、デユポン社はそれまでの生産第一主義から安全第一主義へと経 営方針を大転換する。目先の利益にとらわれず、社会や従業員にも目を配る広い視野からの経営理念は、戦争の終結とともに火薬業界を襲った大不況にも業種の拡大(例えば、自動車用塗料へ火薬原料を転用するなど)で乗り切り、さらに、ネオプレン、ナイロン、テフロンなど、先駆的な研究開発の成功もあって、今日の世界をリードする総合化学会社へと大きく社業を発展させた。まさに、安全(守り)への真摯な取り組みの中から、攻めの武器を学び取った好例と言える。
 今、レスポンシブル・ケアという活動が脚光を浴びているが、こうした結果だけに注目するのではなく、この経営哲学を生んだデユポン社の歴史や歩みにも、是非、着目して頂きたい。なお、歴史の重要性については、次のコメントででも取り上げたい。

2)ノウハウの水平展開
 2つ目は、"ノウハウ(Know・How)"の水平展開についてである。
 これは、ピアレビューでも活動の一つに取り上げられているが、ノウハウには自分を傷つける両刃の性格がある点にはご留意を頂きたい。"経験から学ぶ者は愚者であり、歴史に学ぶ者は賢者である"という諺がある。経験とは、その人だけ、あるいは、その事例だけに通用する個別的な性格があり、これを広く水平展開して応用するためにはさらなる掘り下げが必要である。その典型的な例をJCOの臨界事故に見ることができる。法律的な規制は別にして、現場の作業能率は、問題操作によって臨界問題もなく向上した。しかし、このノウハウは、低濃縮ウランについての経験に過ぎず、対象が高濃縮ウランになると、通用するノウハウではなかった。ここで、"ノウホワイ(Know・Why)"にまで踏み込んでいたなら、この事故は防げたであろう。
 前項で述べたレスポンシブル・ケア活動でも、単なるうわつら上面−ノウハウ−だけを真似るのではなく、その歴史−ノウホワイ−をこそ学び取って欲しいのである。歴史とは、時の流れや時代の背景の中で、出来事の因果関係や関係要因を網羅して掘り下げて始めて得られる情報といえる。歴史(ノウホワイ)を知り、自分の弱点を知って始めて、将来の予測(安全の確保)の精度も上がるであろう。ピアレビューでも、ノウハウの段階で止どまるのではなく、ノウホワイにまで踏み込んだ良好事例の水平展開を目指して欲しい。

3)安全や防災問題にまつわる宿命
 3つ目は、安全や防災問題にまつわる宿命に関してである。
 この問題は一般的には盲点となりやすく、あまり議論されないが、安全・防災を進める上ではとても大切な鍵となる。事故やトラブルは、一旦、起こると、世間の注目を浴び、非難の矢面に立たされる。しかし、対策や管理よろしく問題がなければ、当たり前のこととして誰もそのことに注目しない。こうした性格は、野球の審判に例えるとわかり易い。ミスジャッジした審判には批判の声が殺到するが、上手な審判は目立たない。宿命とも言えるこの問題は、実は、安全の確保にとって見過ごせない大きな課題を突き付ける。
 そのような具体例を腐食問題について見ていきたい。
現場確認を観察するオブザーバー(奥右)
  金属材料の腐食とは、もともと自然界で安定に存在した鉱石を莫大なエネルギーを注ぎ込んで、本来不安定な金属にしたことから始まっている。還元された金属材料がもとの鉱石に戻る(錆びる)のは自然の流れである。この自然の流れに逆らうための叡智と技術が金属を使いこなす背景に込められている。しかし、これらの貢献に対する認識は、腐食しないのが当たり前という感覚の中で埋没し、人々は気付いてはいない。
 ある化学工場での例がある。非常に腐食性の強いこの工場では、耐食性に優れる高価な高級材料が要求された。研究の結果、空気を吹き込めば安価な汎用ステンレス鋼でも耐用できることがわかり、この技術を採り入れて工場は安く建設された。 幸か不幸か、この空気吹き込みには、製品の着色防止効果もあった。製品品質の確保は、目に見える効果であるので、現場ではしっかり継承されたが、防食効果は、長年、問題なく使っていると、それが当たり前になり、いつしか忘れ去られていく。その後、省エネルギーが大きな問題となり、この工場でも空気吹き込みの動力削減が計られ、重合防止剤の使用で空気吹き込みを止めても製品品質には支障はないという検討がなされたが、安全の鍵を握る腐食問題については、長年、問題はなかったという実績が盲点となって、見逃がされてしまった。
 安全にかかわるテクノロジーは、このようにその寄与を顕在化し難い宿命をもっている。"問題が起こらなければ当たり前"と思う人々の盲点を照らす工夫を、このピアレビューにも期待したい。

4)ピアレビューをさらに活性化する方策
 最後(4つ目)に、ピアレビューをさらに活性化する方策について私見を述べたい。
 "馬を水場に連れ出すのはたやすいが、馬に水を飲ますのは難しい"。このアメリカの諺はピアレビュー活動でも心掛けるべき戒めであろう。水を飲むという行動を促がすには、その行動が快感につながる報酬がいる。報酬のない行動は苦行だが、快感につながる行動には苦労を感じない。幸い、人間にはものごとをやり遂げたという達成感が大きな報酬になる。ピアレビュー活動に参加した全員が達成感がもてるような成果の顕在化に、一層の努力と工夫をこらして欲しい。これまでも会員へのアンケート調査でピアレビュー活動の成果をフォローされていることは承知している。ここで大切なことは、レビュー側での満足感だけではなく、被レビュー側や第3者にとってもわかりやすい形で成果を顕在化することであろう。
 このような例として腐食防食分野での活動を紹介したい。この分野も、その成果を顕在化し難いという点では安全への取り組みと共通の課題を抱えており、同じ立場で、何かのご参考になれば幸いである。(社)腐食防食協会では、(社)日本防錆技術協会と共同でわが国での腐食により失われる経済的損失額の調査を実施している。今まで1975年と1997年の2回、調査が行われ、金額という一般にも理解しやすい形で腐食の実態を顕在化させてきた。また、すでにある防食技術の適用で、どの程度の腐食が防げたかも調査し、腐食知見や防食技術の効果や、その適用実態についても顕在化を試みている。
 ピアレビュー活動でも、一般にもわかりやすい形での数値的な成果の掘り起こしに工夫をこらし、その推移から活動の成果や達成感が皆で享受できることを期待したい。さらに、このような解析を通してこれまでの活動での課題が明らかになれば、それに重点を置き直していくことで、2順目を迎えるこれからのピアレビュー活動でのマンネリを防ぎ、より現場に密着した充実度を増した活動も期待できる。このような流れの先にこそ、原子力分野での安全文化を高め、さらに、それを定着させるゴールがあるのではなかろうか。

 

3.日揮の安全活動について
 研究所運営に携わった立場から日揮さんの安全活動について講評させて頂く。
 所長から研究所の運営について説明があったが、その中で私が非常に感服したのはこの研究所が開所して以来20年間無災害で運営されてきていることである。これは本当に素晴らしいことであり、所長の力量は言うまでもないことであるが、所長の気持ちを受けて、リーダーや研究所員の皆さん方が努力された賜物だと思う。特に、所長の方針として、整理整頓をきちんとすること、ひとりひとりを熟知した人間関係を基盤とした安全運営をされているとのことであったが、現場を見せて頂いて、このことを実感した。       
講評を行うオブザーバー
  無災害ということは大変素晴らしいことだが、世の中、表があれば裏がある。デュポン社の例のように、過去に起こした災害が大きなバネになってこれからの安全活動を強く進める駆動力になることもある。過去に事故を経験していないという幸せな現在が今後の安全活動への生ぬるさにならなければ幸いである。その一つの表れかもしれないが、研究所を拝見して、安全に関わる標識や展示物を余り見かけなかった。これはお客様に対して見苦しくないといういい面もあるが、安全運動の立場では、安全の掛け声は常に繰り返してインプットすることも考えてよいのでは・・・。人間はルーズに流れる習性があるので、他の事業所でやられている安全運動も参考にされてはという気もする。
 その極端な例が鉄鋼業界だろう。製鉄所へ行くと朝、"お早うございます"という挨拶の代わりに"ご安全に"という掛け声を呼び掛ける。これも鉄鋼業の過去の事故災害への戒めからきた反省であろう。そういう意味でも過去の事故や災害は安全推進のバネになる。
 開所して20年、ここらでちょっと立ち止まってこれからの対応を考え直すいい潮時かもしれない。そういう意味では、今回のNSネットのピアレビューがここで行われたというのは、準備等大変だったと思うが一つの良い区切りではなかったかとも思う。
 これからも今までの好成績を持続されて、ますますご安全に、研究所の業績を上げられるようお祈りする。

 

4.終わりに

 安全性向上に役立つ相互評価手法を確立され、着々と成果を積み重ねられていることに敬意を表するとともに、これからも一層のご活躍、ご発展をお祈りしている。

以上

 


 

(別紙)

大久保 勝夫 氏 プロフィール

 

○経歴
1954年
3月
京都大学工学部冶金学科卒業
同年
4月
住友化学工業鞄社(新居浜製造所研究部配属)
化学プラント(材料ユーザー)の立場からの材料研究
・新規プロセス開発における適材選定
・耐食材料の開発
・防食管理に関する研究
・現場事故解析と破壊及び腐食防止に関する研究
・生産技術にかかわる研究マネージング
・その他
1969年
5月
主任研究員
1976年
3月
主席研究員
1984年
3月
理事、主席研究員
1986年
3月
理事、エンジニアリング研究所長
1991年
3月
常務理事、生産技術研究所長
1994年
4月
常務理事、但し生産技術研究所長退任
1995年
2月
常務理事退任、嘱託就任
1998年
2月
嘱託退任、退社

 

○その他の社外経歴
新居浜高専学外講師(金属化学担当1970〜72年、現代化学担当1996〜97年)
(社) 腐食防食協会 理事および副会長 1989年〜1990年
同協会主催「'94腐食防食討論会」実行委員長1994年10月
同協会 中国・四国支部 副支部長 1993〜96年
同協会 中国・四国支部 顧問 1997年〜
同協会名誉会員 2000年6月〜
日本金属学会 中国・四国支部 理事
日本材料学会 腐食防食部門委員会 委員および幹事
核燃料再処理工場の腐食問題にかかわる活動
・科学技術庁委託「再処理施設耐食安全性実証試験プロジェクトリーダー」1980〜1994年
・動力炉・核燃料開発事業団(現:核燃料サイクル開発機構)濃縮ウラン溶解槽耐久性評価委員会委員
・同事業団濃縮ウラン溶解槽設置に関する東海村村議会専門家意見陳述人
・日本原子力研究所 再処理プラント材料技術専門部会員
PCS(Petrochemical Co.of Singapore)LPG冷凍タンク事故調査団団長
(住友化学/シェル社・オランダ)
「耐硝酸ステンレス鋼の開発」日本材料学会技術賞受賞1988年
「『硝酸プラント用貯蔵及び輸送設備』へのSN−1鋼の用途開拓」ステンレス協会賞受賞1997年
原子力安全技術顧問(科学技術庁) 1998年3月〜2000年12月
日本原子力研究所核燃料施設安全性研究委員会専門委員1998年8月〜終了
(財)原子力発電技術機構「再処理施設の試運転計画等に係る検討会」委員(2001年度)
同機構 「再処理施設の運転管理等に係る分科会」委員 2001年5月〜継続中

 

○著書・論文等
「ステンレス鋼便覧(第2版、第3版) Z.選択と応用 1.化学装置 1.1化学薬品および化学肥料工業」(日刊工業新聞社)
「材料の腐食・防食」(日刊工業新聞主催、化学工学協会後援、通信教育プロジェクト・エンジニアリング講座テキスト 日刊工業新聞社)
「各種腐食事例と最新防食設計・施工技術−総合資料集− 第V章 各種腐食事例と具体的対策 第2節 化学プラントの腐食事例と対策」(経営開発センター)
「さびを防ぐ事典 総論 金属設備の寿命延長に寄与する防錆技術と防食管理 V-5 装置の腐食防食事例 ・酸製造工場の防食上の留意点 ・アルカリ製造工場の防食上の留意点(産業調査会)
「材料強度学 第7章 3節 材料強度と設計,ケーススタディ,タンク」(日本材料学会)
「防食技術便覧 Z.腐食防食の実例 6.化学装置 6.1 化学薬品」(日刊工業新聞)
「現代化学2」(新居浜高専工業化学5年教科書)
「腐食防食ハンドブック Y.腐食試験法 1.腐食試験法の基礎 1.1腐食試験の目的と実施の注意点」(腐食防食協会)
「防錆・防食技術総覧 第3章 環境の腐食作用 5節 酸、アルカリ、塩類」(産業技術サービスセンター)
「道後温泉と古代のロマン」(道後大和屋観光案内)
その他著書・論文多数

以上

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