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2003年7月14日

第31回相互評価(ピアレビュー)に参加頂いた
第三者オブザーバーのご意見・ご感想について

 2003年5月20日から22日の間、日立造船(株)有明機械工場(日立造船ディ−ゼルアンドエンジニアリング(株))(熊本県玉名郡)に対して実施した第31回ピアレビューにおいて、NSネットの会員外から熊本大学教授である吉田道雄氏に2日間(20日及び21日)にわたりオブザーバー参加頂きました。その際のご意見・ご感想が以下の通り取りまとめられましたので、ご紹介致します。

1.はじめに
  私は、グループ・ダイナミックスと呼ばれる領域で仕事をしている。グループ・ダイナミックスは日本語で"集団力学" と直訳されているが、どちらも一般の方にはあまり知られていない。その目的は、名前からも分かるように、集団との関わりを通して人間を理解することである。組織における安全をどう確保していくか、そのために集団はどうあるべきかといった課題に関心を持って研究も進めてきた。より具体的には、組織や集団内で起こるリーダーやフォロワーの行動を観察し、データを積極的に収集する。それを基に、リーダーシップの改善や安全に関わる風土あるいは規範を確立する技法や訓練方法を開発していくのである。私としては、そうした観点からオブザーバーとして見せていただいた感想を述べる。
 ともあれ、今回は、またとない素晴らしい機会をいただき、心から感謝を申し上げたい。

2.ピアレビューの感想


オープニングを観察する
オブザーバー(右端)


社長面談状況を観察する
オブザーバー(左手前)

 

 仕事を遂行していくために必要なスキルにはテクニカル・スキル(*1)とヒューマン・スキル(*2)がある。私は、その立場上、今回のピアレビューをヒューマン・スキルの側面から見ることにした。いわゆる人間関係に関わる視点からピアレビューを観察させてもらったのである。こうしたことから、私は、レビューアと被評価側(日立造船)とのコミュニケーションの中に、現場の第一線で働いている人がどのくらい見えてくるかという点に注意した。そして、少なくとも最初の段階では、第一線で働いている一人一人のイメージがにじみ出てくるような会話がもっともっとあってもいいのではないかと思った。もちろん、レビューの段取りが、事前に提示された質問に対して回答する方式をとっているため、現場で働いている人々の具体的なイメージを生々しく提示することは、なかなかむずかしいとは思う。その上、レビューには時間の制約も加わってくる。しかし、そうした困難さは承知しながらも、レビューの中に、現場で働いている人が見えるようなやりとりが、もっと多くていいのではないかと感じたのである。職場における安全運動などにおける若者の具体的な実態も、会社側から積極的に提示し、またレビューアも、それをどんどん引き出していただきたい。
 例えば、マニュアルは多くの場合、十分に整備されているものだ。その内容も、"なるほど、これがきちんと守られれば安全の面では心配ないな。事故はまず起きないだろう"と確信できるものがほとんどである。しかし、"そのマニュアルが実際に守られているか"、あるいは、"守られていないことがないか"と突っ込んで問われると、現状はいささか危いものがあるのではないか。いま、我々は、マニュアルだけでなく安全推進運動が必ずしも実践に移されない理由について調査研究を進めている。そうした中で、"全体としてはきちんとしているが、この部分は守られていない"といった事例も少なくない。また、"施設がしっかりしていて、本音を言うとマニュアルを守らなくても事故は起きない"とか"マニュアルを守っていても思わぬ事故に見舞われることもある"といった、"こころ"の問題も無視することはできない。ピアレビューでは、こうした側面にも話題が広がるといいのではないかと思った。レビューアは欠点を見つけて文句を言うために来ているのではない。あくまで、その目的は職場の活性化であり、従業員の意欲や安全行動に対する意識の向上である。したがって、被評価側も、"実を言うと、このあたりがうまくいかない"といった悩み話を開示していただければ、それに対する解決策のヒントが得られるかもしれない。何と言っても、レビューアは、他の多くの職場を知っている人たちなのである。
 こうしたことから、初日は"もう少し突っ込んだやりとりがあってもいいかな"という印象を持った。しかし、2日目になると、内容的に深まり、被評価側も、より具体的な事例を話題に載せたり、困難な点を率直に表明するといった姿勢が見られるようになった。対話の中に、"本音を言えば…"といった発言も聞かれたのである。こうした状況の中で、人と人との関係が、時間とともに変化することを実感することができた。我々は集団を対象に研究をしているが、個々の人間と同じように、集団も発達・成長するのである。このピアレビューというシステムも、被評価側とレビューアをメンバーにした集団現象である。"とにかく何でも言いなさい"というだけでは、本音も語れない。そこには人間的な信頼関係が求められる。そうした関係を築くためには、ある程度の時間が必要なのである。そして今回も、同じメンバーが対面に座っていながら、初日と2日目とでは、その関係の在り方が違ってきたことを感じた。

 


書類確認状況を観察するオブザーバー(左奥)

3.集団の発達
 そこで、集団の発達について考えてみよう。集団が出来上がった初期のころは"防衛の段階"と呼ばれる関係が支配的になる。とにかくお互いに出会ったばかりで、他人に対する情報をまったく持っていない。そこで、ついつい自分を守ろうとする。自己防衛本能が表に出てくるのである。そうした状況には、当たり障りのない話や話題が求められる。お互いに傷つくことを恐れるのである。冷戦下の平和共存といったところだろう。こんなときには、天候の挨拶などは都合がいい。"暑くなりましたね"といえば、"そうですね。でもこれからはもっと暑くなりますよ"。こんな会話で終わるのである。急に険しい顔をして、"あなたは暑いといいますが、どこと比較してるんですか。東南アジアはもっと暑いですよ"。こんな反論などあり得ないのである。まさに表面的で、どうでもいいような会話がつづく。集団がこうした防衛的な状況にあるときは、"率直に言いなさい"と促しても、本音は出てこない。この段階にある組織や集団は、コミュニケーションそのものが成り立たない。"防衛の段階"の雰囲気を伝える言葉は、"よどんだ"、"暗い"、"いらいらした"といったものである。
 "防衛の段階"に続くのが"集団形成の段階"である。この段階になると、集団が明るくなる。自分たちは、何かの縁で一緒に仕事をしている。"どうせ共にいるのであれば、楽しくいこうよ"という雰囲気が醸成される。こうなると、メンバーたちは、"明るい"、"楽しい"、"わくわくした"といった気持を持つようになる。
 集団の状況が"集団形成の段階"に達すれば、それで十分ではないかと思われるかもしれない。しかし、本当の意味で集団が発達・成長したと言われるには、もう1ステップが必要なのである。その段階は、"相互啓発の段階"と呼ばれる。ここでは文字通り、お互いに"啓発し成長しよう"がキーワードになる。したがってこの段階は、"明るい"とか、"楽しい"といったバラ色の言葉だけでは表現できない。例えば、"このあたりは少し考え直した方がいいんじゃないか"、"そんなことをするから皆から誤解されるんだよ"、"もっと自分の意見を持てよ"。こんな激しいやりとりも起こるのが"相互啓発の段階"である。そうした状況だから、"ドキッとした"、"カッカした"といった厳しい雰囲気も漂ってくる。しかし、よく考えると、そうした指摘や発言が、"自分の成長にプラスになっている"ことが分かる。相手も悪意や意地悪で言っているのではない。そうしたことに気づくことで、爽やかな気持になれるのである。したがって、"晴々した"、"スカッとした"といった言葉が聞かれるのもこの段階の特徴である。"ドキッとし、カッカ"しながら、同時に"晴々とし、スカッと"する。このプラスとマイナスと思える反応が同時に起きるのである。ここまで集団が発達していると、本音でものが言える。組織に当てはめれば、"言いにくいことが言える""失敗を正直に伝えられる"ために、いわゆる不祥事といった事態を避けることができるのである。
 こうした"集団発達"の関係は、ピアレビューの場合でも同じだと思う。レビューアたちは、決して欠点やあら探しに来ているのではない。しかし、それが理屈では分かっていても、はじめのうちは、お互い相手のことを知らない。そこで、初日の前半などは、多少なりとも防衛的な気持が支配的になるのである。しかし、時間の経過と共に、お互いの関わりが望ましい方向に発達していく。そのうち、にこやかで和んだ雰囲気が生まれてくる。まさに"集団形成の段階"である。さらに、2日目になると、"もう少しストレートに話をしよう"といった気分が出始めているように思う。
 私は、"集団発達"の考え方を2つの視点から考えておきたい。1つはこのピアレビューそのものの発達である。被評価側とレビューアたちが、お互い努力して、可能な限り早く"相互啓発の段階"までに関係を成長させることが期待される。もう1つは、日立造船という組織が、あらゆる作業集団を、"相互啓発の段階"にまで発達させていただきたいと言うことである。あるいは、すでにその段階まで成長しているとすれば、その望ましい状態を維持していくための方策を真剣に考えていただきたいと思う。
 ともあれ、今回のピアレビューでも、初日と二日目を比べると、明らかに関係が成長したことを実感している。


現場確認状況を観察する
オブザーバー(左端)

4.モラルハザードとモラールハザード
 ところで、今回のようなピアレビューが行われるようになったのは、東海村の燃料加工施設で発生した臨界事故が契機になったと聞いている。このような重大な事故を二度と起こしてはならないとの決意の下に、原子力事業者が安全文化を共有し、原子力安全の確保を徹底する目的で始められたとのことだ。そこで、組織の問題を相互にチェックし、原子力発電の安全性を、あらゆる面から高めようというのである。しかし、組織の安全の問題は原子力発電に限ったものではない。いつのころからか、さまざまな組織の不祥事が明らかにされるようになった。報道などを見ていると、そうした組織は共通の問題を抱えているように思われる。とくに最近よく耳にするようになったのが、"モラルハザード(moral hazard)"という言葉である。これは、"モラルの崩壊"とでも訳すべきものであるが、要するに組織メンバーの倫理観や道徳意識が地に落ちたということである。この"モラルの崩壊"を防ぐことは、いまや組織の安全にとって最重要課題になっている。こうした中で、私は、"Moral and Morale Hazard(モラルとモラールの崩壊)"という視点から問題を捉えたい。Moralは倫理観とか道徳意識のことだ。組織といわず、いまやわが国全体が"モラルハザード"という爆弾を抱えている。これにうまく対処できなければ、組織そのものが崩壊するのである。"モラール(Morale)"は、もともと兵隊の士気、つまりは戦闘意欲を表す言葉だったようだ。それが転じて、現在は仕事に対する"意欲"や"満足度"、あるいは一般的には"やる気"を表すものとして使われている。私は職場におけるリーダーシップや対人関係のあり方とメンバーのモラールに関して多くのデータを分析してきた。その結果を見ると、職場の対人関係がモラールを大きく左右していることが分かる。特に、管理・監督者のリーダーシップや影響力が、部下のモラールにきわめて大きな影響を与えているのである。
 毎日の仕事に満足しながら意欲満々で仕事をしている人たちが職場のモラルを崩壊させるだろうか。また時間的に考えて、モラルが崩壊する方が先で、その結果として職場で意欲を失ってモラールも低下するのだろうか。そうではなくて、モラールがまず先にありきだろう。モラールが高い人間は、モラルに悖るような行為もしないはずだ。つまりは、職場のモラールが崩壊すると、その結果としてモラルハザードが起きる状況が生まれてくるのである。そうだとすれば、モラルハザードを防ぐためには、その先行条件たるモラールのハザードを防ぐことが重要になってくる。つまり、対人関係や日常生活を通じてモラールを高めておくことで、モラルハザードを防止できるのではないか。すでに述べたように、管理者と仕事をしている若い人達との日頃の関わりのあり方がモラールに決定的な影響を与えているのである。そうであれば、望ましいリーダーシップの発揮によって、モラールを高め、結果としてモラルハザードを防ぐことが期待できるのである。
 それでは、そのためにどうすればいいか。その一つの回答として、各人のリーダーシップについて客観的な調査を行うことが考えられる。リーダーは、部下に対して自分がやっているつもりでいても、それが思ったように通じていないことに気づいていないことが多い。こうした点を明らかにしてくれるのがリーダーシップに関わる調査である。また、リーダーシップの改善を目的にしたトレーニングも開発されており、こうした機会を捉えて、職場でのコミュニケーション能力などを高めておきたいものだ。それによって、職場メンバー全体のモラールを高め、最終的にはモラルハザードを克服できる"安全な職場"が実現するのである。
 もっとも、皮肉な意味で、"意欲と満足度が高い集団"が、自分たちを守らねばならないという"忠誠心"に燃えて、嘘でも何でもついてやろうとなると、これはモラルハザードそのものである。私がここで強調しているのは、そうした"まとまり"ではなく、"健全な意欲や満足度"を育成する集団である。


管理職面談状況を観察する
オブザーバー(右奥)

5.参画
 ところで、職場で働く人々の意欲や満足度を高めるキーワードは、"参画"だと思う。いろいろな意思決定や安全運動などの機会に従業員が参画することは動機づけに大きな影響を与える。今回のピアレビュー中にも社内報が話題に上っていたが、これらは、従業員が参画するチャンスになると思った。例えば、企業で、上司のリーダーシップやモラールの調査が行われる。その結果については上司やトップには十分に報告される。ところが実際に回答した人々には情報が伝わらないことがけっこうあるようだ。そうなると、"自分たちはまじめに答えたけれど、あれは何の役に立っているのだろう"という疑念も生まれる。場合によっては、"あんなもの書いても、書かなくても同じこと"といった風潮が広まれば、調査はマイナスの効果をもたらすことになる。こんなとき、まずは社内報等を使ってきちんと情報を伝えることが重要になる。"なるほど、自分たちの回答も役に立っているんだ"。こんな受け止め方をしてもらえれば調査の意味は大いにあったということができる。"参画"という視点から言えば、もっと積極的に、従業員たちが自分で記事を書いたりすれば、さらに意識は高まってくる。だれでも、自分が担当したり、自分のことが書かれていたりすれば、少なくともその部分だけはちゃんと読むものである。その点では、社内報も担当者を固定せずに、できるだけ多くの人々が関われるような形で編集を進めることもおもしろいのではないか。
 また、トップ層のメッセージなどは、公的な場面では、どうしても硬くなる。広報を見ても、"まあ、その通りだろう"といったレベルで終わってしまいがちだ。こんなときに、例えば若い男女の社員がペアになってトップの部屋に出かける。そして記者よろしく、メッセージの真意を聞き出す。また、従業員の方もその気持ちを伝える。こうした試みをすれば、トップ層の硬いメッセージが、新入社員にも理解できるような表現に変わっていくだろう。そうなれば、記事を読んだ人たちの間にも、組織の意思決定に参画しているといったムードが高まってくる。そういう意味で、参画をキーワードにして従業員の意欲や満足度を高めていくことをお薦めしたい。
 また、組織において立てられる目標についても参画が大きな意味を持ってくる。表面的にはすばらしい目標も、メンバーがそれを受け入れていなければ絵に描いた餅になってしまう。"あれは会社や上役が決めたものだから、仕方なくやりますよと言わないとまずいから…"。こんな状態では、目標達成もおぼつかない。目標がメンバー全員に受容されている、納得されていることが重要なのである。ここでも目標を決める際のキーワードは"参画"である。ところで、"参加"ということばもあるが、私は"参画"にこだわりたい。"参加"には"ただそこにいる"という部分も含まれているような気がするからである。いわば、"枯れ木も山の賑わい"でも参加したことになるのではないか。これに対して"参画"には、積極的なエネルギーが感じられる。"画"は企画や計画、あるいは画策といったことばから連想されるように、前向きのニュアンスを持っている。ともあれ、"目標は自分たちで決めたんだ"という気持が大切だと思う。この参画ということばは、最近よく目にするが、その歴史はかなりのものだということは案外と知られていない。少なくとも私自身が関わりを持たせていただいた三菱重工業(株)長崎造船所で安全運動が展開されたときには、すでに使われていた。それは1960年代の終わりから70年代にかけてのことである。もう30年以上の時間が経過している。その当時はVTRがないため、運動の記録はスライドにまとめられている。そのタイトルが、"全員参画による安全運動の実践"なのである。このように、"参画"を重視する視点は、わが国には以前からあったのだ。こうした、"全員が積極的に関わる"という精神を、安全運動をはじめ、さまざまな活動に導入していただきたい。

6.マニュアルについて
 マニュアルについては、ほとんどの場合十分な検討がされていて、内容そのものには、大きな問題がない例が多い。しかし、現実に仕事をしている作業者には、"そうしたマニュアルがどうして必要なのか分からない"と言う者もいる。あるいは、"マニュアルの必要性は分かるが、具体的にどうしたらいいのか分からない"といった声もある。こうした問題を解決していないと、どれほど整備されたマニュアルであっても、存在価値がなくなってしまう。"マニュアルを守ってくれれば、何ということもなかったのに…"。事故や災害が起きた後によく聞くことばである。しかし、まさにそこが大きな問題なのである。守れば絶対安全のはずのマニュアルがなぜ守られないのか。マニュアルを作成した者と、それに基づいて仕事をする者たちとの間に認識のズレがあったりする。このあたりの現実を把握し、そのズレを解消する努力が必要である。そうでないと、後になって嘆くような事態を招くことになる。

7.リーダーシップ
 すでに述べたように、リーダーシップは対人関係で最も重要な要素の1つである。したがって、職場リーダーのリーダーシップを改善・向上させることが、部下たちのモラールを高め、結果として活気のある安全な職場が実現する。もちろん、モラルハザードも回避することも可能になる。リーダーは自分の影響力が、どのように伝わっているかについても調査などを通じてチェックするといい。ここでは、部下評価が重要である。我々は、部下から自分がどう見られているか、自分がやっているつもりでいることが部下に通じているかどうかという視点からリーダーシップを分析してきた。そのズレを解消するために、さまざまなトレーニング・プログラムも開発している。こうした試みを通してリーダーシップは改善・向上していくのである。

8.教育
 職場が元気で安全であるためには、何といっても普段からの教育が欠かせない。よく"共育"ということばが強調される。だれが言い出したか知らないが、教え育てるだけの"教育"ではなく、共に学び育つ"共育"が必要だというわけだ。なかなかおもしろい表現だ。私も、これに乗じて言わせてもらえば、教育は"共に与え合う"ことが重要だと思う。その意味で、"供育"ということばを提案したい。お互いに知識を与え、エネルギーを与え合う。教える側は、若い人から尊敬してもらう。尊敬を供給してもらうわけだ。その点では、"供育"もなかなか言い得て妙だという気がする。一方で、絶対に避けなければならない教育もある。それは、"狂育"や"脅育"である。また"狭育"であっても困るし、"恐育"などは、本当の教育とは言えない。そんなことは分かっていると思われるかもしれない。しかし、自分では教育しているつもりが、いつの間にかとんでもない"『きょう』育"になっていることはないだろうか。職場では、"真の教育"を展開していただきたいものだ。


管理職面談状況を観察する
オブザーバー(右奥)


 

 

9.気概と誇り
 日立造船は原子力発電そのものに間接的な立場で関わっていることになる。そのため、緊張感という点では、原子力発電所に比べればやや余裕があるのかもしれない。しかし、そうした状況の中でも、"自分たちは原子力発電における安全の一翼を担っているんだ"という自信と気概、そして誇りを持っていただきたい。とりわけ若い従業員の方々には、そうした気持で、元気に仕事をしていただきたい。それを伝える役割は管理監督者にあることも自覚していただきたい。そのことによって、働きがいのある職場も実現するのである。
 そもそも、原子力発電所はプラス評価よりマイナスの評価の方がニュースになりやすい。そのため、とかく否定的な話題が多くなりがちだ。そんなことで、原子力発電所で働く人々は"自分は社会的に貢献しているのだ"ということを実感しにくい状況になっている。これは大きな問題だと思う。従業員一人一人が"俺たちがあってこそ原子力発電所のサイクルが回っているのだ"という"俺たち意識"を持っていただきたい。自分たちが原子力発電を支えているという意識が必要なのだ。
 もう一つ、仕事が単純、単調だからおもしろくない、やる気が出ないというのは必ずしも正しくない。そうであるなら、パイロット業務もきわめて単純な仕事だと思う。彼らは自分の意志で、飛行機を1mすら動かせない。しかも狭いコックピットの中に閉じこめられている。離着陸時は大きな仕事をするが安定して飛んでいるときには、それほど複雑な作業をしているようには見えない。そうだからといって彼らが意欲を喪失しているだろうか。そうではないだろう。その仕事によって、喜びを、幸せを運ぶ。ときには悲しみを、そして歴史を運ぶことさえある。そうした中で、パイロットたちは仕事に責任と誇りを感じているに違いない。したがって、作業工程の単純さが問題なのではないのだ。溶接1つをとっても、自分の仕事によってどんな物ができるか、それがどのように評価されるか、そして、どんな形で社会に貢献しているか。こうした意味付けをすることで、仕事は楽しくやりがいあるものになっていくのである。

10.終わりに
(1)組織に対しての提言
 組織が活性化するためには、第一に、"適度の危機意識"が必要である。"今のままではいけない・・・"という気持を持ち続けている組織には、エネルギーが溢れ、変革の力がみなぎっている。生理学的には、ホメオスタシス(Homeostasis)と言われているが、我々は何かが欠乏すると、それを元に戻そうとする力が自然に働くのである。だから、人間の行動の原動力は欠乏であり、バランスの不足である。それは、ある種の危機的な状態であり、だからこそ回復しようというエネルギーが出てくるのである。組織も同じことだ。"このままではまずい、何とかしたい"という適度な不満足感を持ち続けることが大切なのだ。組織にも"このままでいい"といったぬるま湯的な状態に満足せず、いつも問題を探そうという姿勢が求められる。その意味で、このピアレビューそのものが、そうした刺激的な役割を担っていると考えることができる。
 第二は、"改善できることを信じる"ことである。"やればできる"と信じるのである。はじめから否定的な結論は出さない。"どうせやったって変わらない"。こんな思いでいては、人や組織は変わるはずがない。"やればできる、努力すれば変わる"という改善を信じる力を持ちたいものだ。ピアレビューでも、問題点を発見し、それは改善できるはずだという前提で報告書が出される。ここが重要なのだ。"いくら提言しても、どうせ改善できない"。こんな発想だったら、報告書を出しても意味がない。もちろん、被評価企業の方も、報告書の提言に対して"よし、改善するぞ"という信念を持って、組織活性化のために邁進していただきたい。
 第三は、"変わるのは自分(組織自身)のため"という信念も持って欲しい。ピアレビューでいえば、被評価組織はレビューアのために変わるのではない。それは、組織自身のためなのである。このことは、職場のリーダーには、とくに認識しておいていただきたい。リーダーは、いつも変われ変われと責め立てられる。そうしているうちに、"分かったよ。部下や組織のために変わればいいんだろ。自己犠牲の精神でいけばいいんだろ"。こんな居直りに似た気持になる。しかし、これでは駄目なのである。リーダーが自分を変えるのは部下のためでも組織のためでもない、それは自分のためなのである。自分が行動変革に挑戦し、成功したらどうなるか。いい仕事をすれば、周りのみんなから高い評価や信頼を勝ち得るにちがいない。そうなれば、まさに自分自身が気持良くなるはずである。努力は、最終的には自分のところへ返ってくるのだ。組織の場合も、努力は社会からの高い評価となって実を結ぶに違いない。決して社会のために自己犠牲的に仕事をしているのではないのだ。
 第四に、"我々がしなければ誰がする!!"という"使命感"が求められる。何事にも気概と迫力を持って挑戦したいものである。
(2)ピアレビュー活動に対しての提言
 ピアレビューを行っているNSネットも、こうした一連の考え方を採用していただければと思う。つまり、ピアレビューそのものを、いつも"このままではいけない"、"改善しなければならない"といった適度の危機意識を持って進めていくのである。そして、"努力をすれば、自分たちはピアレビューを改善できる"という信念を持ってやっていただきたい。さらに、こうしたピアレビューにエネルギーを投入するのは、対象企業のためではないことを自覚することである。ピアレビューを精力的にすすめていれば、"こういうレビューをしてくれるので、うちは助かります"といった感謝や喜びの声が聞こえてくるに違いない。それこそピアレビュー冥利に尽きるというものである。こうした評価を得ながら、さらに高い目標を掲げて前進するのである。そして、"我々がやらなければ誰がやるのか"という気概を持ってピアレビューに取り組んでいただきたい。
(3)変革するためのチャンスにチャレンジ
 私は最近、"チャチャチャのこころで行こう"と提唱している。あるとき、ふと、"Challenge the Chance to Change Yourself!!"というセンテンスが
頭に浮かんだ。"自分自身が先に変わるチャンスに挑戦しよう"というわけだ。そこに含まれる3つの Cha をとって、"チャチャチャのこころ"と呼ぶこと
にした。私がこのセンテンスで強調したいのは、"自分が変わる"ことをチャンスだと考える点である。人はややもすると、"変わる"ことを"嫌なこと"、"強制されたこと"と捉えがちである。そんな思いでは何の変化も起こらない。そうではなくて、"自分が変わる"のは"またとないチャンス"だと受け止めるのだ。そして、変わったときの喜びはチャレンジしたからこそ体感できるのである。こうした気持でこれからもしっかり頑張っていただきたい。そうすれば、組織も人も本当に変わるのだ。そのときの喜びはまた格別なはずである。

 

11.オブザーバー:吉田道雄 氏

(1) 参加ピアレビュー(場所):第31回ピアレビュー(熊本県玉名郡)

(2) 参加スケジュール
    2003年5月20日から22日のレビュー期間中のうち、5月20日及び21日の2日間

(3) プロフィール

  ○経歴
    1948年 福岡県生まれ
    1976年 九州大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学
    九州大学助手、鹿児島女子短期大学講師を経て
    現在、熊本大学教授(集団力学)、(財)集団力学研究所副所長
    博士(学術)

  ○所属学会・協会
    日本グループ・ダイナミクス学会(常任理事)
    日本心理学会
    日本教育心理学会
    日本看護科学学会

  ○主な論文
    『組織の安全と集団的視点. 労働安全衛生広報』
          2000年, No. 751,労働調査会, 16-23.
    『組織と人間の安全 「組織安全学」を求めて』
          2000年, 電氣評論,85巻8号, 電氣評論社, 7-10.
    『組織の安全と人間 −「組織安全」と「悪魔の法則」』
          2000年,産業訓練, VOL.46 No.542, 日本産業訓練協会, 26-31.
    『医療事故防止のヒューマン・アプローチ』
          2001年, Nurse Education,Vol.2 no.1,日本総研, 41- 44 .
    『組織の安全と人間 集団力学の視点から』
          2001年電氣評論, 86巻5号,電氣評論社, 16-20.
    『医療事故の人間的側面 - 組織安全と集団規範 -』
          2002年, 医療経営最前線 看護部マネジメント編,
          No. 144, 産労総合研究所, 56 -58 .
  ○主な著書
    『心理学入門』(共著)1979年 福村出版
    『人間関係入門』(共著)1988年 ナカニシヤ出版
    『リーダーシップ理論と研究』(共訳)1995年 黎明書房
    『リーダーシップと自己教育力』(共著)1996年 明治図書
    『偏見の社会心理学』(共訳)1999年 北大路書房
    『リーダーシップと安全の科学』(共著)2001年 ナカニシヤ出版
    『人間理解のグループ・ダイナミックス』2001年 ナカニシヤ出版


                                                           

以上


(注*1)仕事を遂行するために求められる技術や知識
(注*2)仕事上の対人関係を良好にするために求められる技術や知識

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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