(3) 面談について
社長/専務のトップとの面談と担当者との面談の両方をオブザーブしたが、トップの考え方とそれを受けて担当者がどう仕事をしているかをインタビューすることのは重要であり、レビューに不可欠な項目であると感じた。ただ、質問内容についてマニュアルができているようだが、今後質問内容を進化させていってほしい。
経営トップとの面談では質問も回答も一般論に流れていたという印象を持ったので、もっと具体的な経営理念やトップとしての行動を聞き出せるよう質問を工夫したほうがよい。2日目の担当者との面談は質疑が具体的でポイントが絞られており非常に良かった。が、1日目の担当者との面談では、質問内容がストレートすぎるように感じた。「手順書を守って業務を行っていますか?」と質問されて、たとえ守っていなかったとしても、「守っていません。」とは答えにくい。例えば、「手順書の改訂に手間がかかりますか?」等、手順書逸脱の背景になり得る要因を少し遠回しに聞くことから始めると、問題点が透けて見えてくるのではないだろうか。
このように経営トップの方針を担当者がどこまで理解し、実行しているかを確認することは安全マネージメントで重要な部分であり、不可欠である。
(4) 現場確認及びヒューマンエラー防止策について
ヒューマンエラー防止策については現場確認時にホスト側が個々の対策を詳しく説明する形であったため、今回のレビューは検査レベルになってしまっていたように感じた。ヒューマンエラー防止策については原子力関連企業であれば現状で個々の対策はきっちりなされているはずなので、むしろPDCAが回る仕組みがシステムとして確立されているかをもう少し詳しくレビューしたほうがよかったのではないだろうか。
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面談の状況を確認するオブサーバー
(左から3人目)
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現場観察状況を確認するオブサーバー
(右端)
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3.全体を通しての感想
(1) ピアレビューについての意見
六ヶ所での現場レビューも含めて、レビュー者は自社での経験を参考にレビューされており非常に良かった。状況や背景を知らずに形だけを見るのではなく、自社での実態に基く地に足がついた有益な意見交換が行われていたと思う。現場の実態を踏まえたレビューはNSネットのピアレビューの良いところだと思う。
全体的に、レビューを行うレベルを明確にするべきである。すなわち、NSネットのピアレビューは監査レベルで実施しているものと認識しているが、時として監査レベルなのか検査レベルなのか境界が曖昧であるように感じた。監査レベルでレビューするならば、リスクマネージメントのPDCAが適切にサイクルしているかというチェックとなり、検査レベルでのレビューは、現在の規制当局が行っているような個々の処置が適切であるかどうかということなる。NSネットとして原子燃料サイクルの輪に係わる企業同士でのレビューシステムを確立してもらいたい。
また、レビューのレベルと共にどの程度の厳格さを期待するかについての考え方も重要である。ピアレビューは情報交換に近いところで行っているため、組織管理等までレビューすることが出来るという特質がある。しかし、一方では情報交換と言ってしまうと外部から見れば馴れ合いともとられかねない。その背景には(ピアレビューの位置づけが充分理解されていないことから)、ピアレビューを受けた企業には不正はないというような過剰な期待があるのではないだろうか。例えば JCO事故後には、抜き打ち検査を実施すれば不正は見抜けるというような誤った意見があったが、外部からでは抜き打ち検査をやってしても、あるいはかなりの時間をかけて監査をしても不正を見抜くことは難しい。規制、監査、ピアレビューなど何れもする側と受ける側が適度な緊張感を持ち、自主的な不正防止のための努力が必要である。従って、ピアレビューには不正の摘発といった直接的効果ではなく、適度な緊張感を会員企業に持たせて安全レベルの向上につなげるという間接的な効果以上を期待することには無理がある。
現在のピアレビューのやり方が完全なものではないかもしれないが、形だけ見ているのではなく実質的なレビューとなっていて、進んだ取り組みであると思う。一般的には他社から立ち入られたくないような組織管理プログラム等まで議論を行っており、ホスト側の企業カラーもあるとは思うが、事業者同士のレビューだからこそ出来ることだと思う。このように事業者同士でピアレビューを行うというシステムがうまく機能することが重要であると思う。
(2) その他
2巡目以降のピアレビューでは費用対効果の最適化、レビュー者の眼力及びスキルの維持、レビュー者の養成・確保が重要課題であろう。レビュー者が権威のある資格で、尊敬され、広く認められるようになればレビューもやりがいがあるものになる。レビューに熟練した経験者がサポータ組織を作るなどピアレビューのシステムに磨きをかけ、原子力界が安全に努力している誠意を見せていけば、時間がかかるかもしれないが、いずれ認められていくのではないだろうか。
原燃輸送の事業である輸送業務は発電等に比べるとあまり世間の注目を浴びていない分野ではあるが、今回、オブザーバーとして参加し、安全に対して非常に手間、時間、費用をかけていることがよくわかった。このような取り組みを行っていることを社会にわかってもらうためにも、ピアレビューは重要な役割を担うものである。
現状の原子力の置かれている社会的立場では、ひたすら安全に配慮している誠意を態度として見せるしかないと考えており、ピアレビューが有用な社会システムになることを期待している。 |