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2002年12月11日

第26回相互評価(ピアレビュー)に参加頂いた
第三者オブザーバーのご意見・ご感想について

 2002年10月30日から11月1日の間で石川島播磨重工業(株)横浜事業所(横浜市)に対して実施した第26回ピアレビューにおいて、NSネットの会員外から日本ヒューマンファクター研究所の所長である黒田勲氏に二日間(10月30日及び31日)にわたりオブザーバー参加頂きました。その際のご意見・ご感想が以下の通り取りまとめられましたので、ご紹介致します。


1.はじめに
 会員外からのオブザーバーということで参加したが、私はスリーマイル島の事故以来ヒューマンファクター関係で原子力に関わっている。また、もんじゅの時はアドバイサリー・グループ に参画している。


2.今回のピアレビューについての感想


オープニングを確認するオブザーバー(中央)

 

 

  ピアレビューは日本ではなかなか馴染まない考え方だが、それが今回で26回目ということでNSネットが努力された結果だろうと思う。
 一番私が見たかったのは、NSネットがどういう形でピアレビューを実施していくかである。特に、今回のレビューは今までいろいろ噴出してきた原子力関係の問題で、現在、原子力分野は最も厳しい逆風の中にあると思う。その意味においては、これから立ち上がるのか、衰退していくのかのキーポイントの段階で、今回のピアレビューが行われたことに大きな意義があると思う。ホスト側(レビューを受ける組織)とレビュー者側がお互いにこれからどこに復活点を求めていくかのアイデアを出し合う形のレビューが欲しいと思って見ていた。そういう面においては、非常に率直にお互いに意見を出していたと感じた。石川島播磨重工業側はもっと意見を出して頂いてもよかったかなと思う。
 具体的には、例えば、安全文化、倫理の問題にしても、現場では何をしたらいいのかを率直にディスカッションしていくことがこれからの原子力の安全の上で大切だと思う。しかも、原理、原則とかあり方ではなく、現場においてどうするかをディスカッションすることはピアレビューで大切なことだと思う。
 このピアレビューですばらしい資料を作って頂いたが、もっと簡単にピアレビューができるような方式をNSネットともども考えて欲しい。勿論、話があったように、このような資料を作ることによって会社自体の中のコミュニケーションが図られたというメリットもあるが、メリットにしては随分分厚い資料のメリットだと思う。なるべく簡単にしてすばらしい成果が出るピアレビューを続けていったらと思う。いろいろアイデアがあったら申し入れて頂ければありがたい。

 

 


書類確認状況を確認するオブザーバー(中央奥)

 

 

 

(1) 品質管理について
  石川島播磨重工業が言う"品質管理に非常に力を入れている、歴史のある工場"を見て、本当にすばらしい品質管理のシステムを動かしていると思った。スリーマイル島の事故の後、アメリカの雑誌に"原子力発電所は巨大なるスイス時計"と書かれていたが、そういう面では原子力における品質管理はひとつの使命だと思う。そして、今日聞いて、そういう物の考え方が、ITが進むにつれて情報の品質管理(フィードバックシステムを含めて)にまで広がっているという感じを持った。

(2) 労働安全について
 労働安全についても大変すばらしい労働安全システムである。そのすばらしさは自律的に現場の人達が実施しているシステムに発展させている点だ。その成果もすばらしい。
 労働災害については、現場で一生懸命にやると、こういうふうになるんだなぁと思ったのは、デュポン の労働安全のシステムの中に"STOP"という訓練システムがある。これはSafety Training and Observation Programの略であるが、"労働安全は作業現場を教育の場としてやらなければならない"と今日の話にあったが、これはObservation Programに一致すると思った。石川島播磨重工業は大変すばらしい安全の成績を維持しており、現場の人達の努力を大変尊敬する。

(3) 教育訓練・技術伝承について
 教育訓練や技術伝承についてであるが、教育訓練も言葉自体が走る癖がある。教育訓練の枠組みを作ると教育訓練ができているような幻想に陥ってしまうが、教育訓練の一番大切なことはその成果がどういう形で現れてくるかであると思う。その意味では、ホストの石川島播磨重工業の教育体系はすばらしいと思う。
 特にすばらしいと思ったことは、技術伝承の中に出てくる専門家リストである。これはこれからの技術の流れの中になくてはならない"匠"、"名人"の技術をどうやって伝承していくかが大事だが、日本では余り大事にしていない。そういう点においては、大変高い技術、技能を1つの手がかりとして高い水準へのレベルアップが要求されていくであろう。技術の伝承では専門家を残していくことが大切だと思う。石川島播磨重工業がそういうところに着目してシステムの中に伝承の形を作っていることに感銘を受けた。

3.全体を通しての感想

(1) 倫理の問題について
 日本の中には言葉が走っていく癖があるが、"安全"、"安全文化"、今問題になっている"倫理"もその一つと思う。安全の考え方は大きく変わってきているのではないかと思う。"企業内、あるいは技術的安全"からもっと次元の大きな"社会的な問題としての安全のあり方"が今大きく問われていると思う。原子力安全の問題を、非常に厳しい風の中でどう解決していくかが迫られているおおもとのところで、"社会の安全文化に対する希求"が全く変わってきていると思う。その面で安全という言葉の持っている広さ、次元が大きく変わってきている気がする。
 倫理は著しくその国の精神風土に根ざすもので、借り物ではないと思う。しかし、原子力も航空もそうだが、先端技術は翻訳的なものを非常に尊ぶ傾向にある。特に、倫理の問題は日本人の中でどう伸ばしていくかをこれからは考えていかなければならないと思う。日本語で書く倫理の話の中にはできないのかもしれないが、横文字が多過ぎる。内部告発者、ホイッスルブローアーを日本の社会の中でどうしなければならないのか。必要だと思うが、その人達の位置付けをどうしていかなければならないかを我々の文化として考えていかないといけない。

(2) 品質管理について
 品質管理の言葉のおおもとである"Quality Control"の"Quality"の中には"品"と同時に"人"が入っていると思う。そのまま訳すと本来は"質管理"である。日本では"人"質管理を怠ってきたと思う。それが今いろいろな面で噴き出してきている感じを強く持っている。今日、工場の中を見ると、"人"質をどうやってよくしていくのかに集中してきている気がする。
 安全と品質と生産は全く同じ基盤の上に立っている。なぜなら、これらは人間を基礎に築き上げられているシステムだからと思う。
 そういう面では、安全を支えているハードウェアや設計している人達の基盤的なところをしっかりさせないといけないと思う。そして、それが動いていく時に、重なってこなければならない"人間の管理/マネージメント"に我々は弱さを持っている。それを我々は急速に改善していかなければならないと思う。


(3) 原子力の保全
 全体の問題として気になっていたのは、最近のシュラウド の問題を含めて、保全の"仕様規制"から"性能規制"へとシステムが大きく動いており、今年(2002年)の8月15日に事後保全への移行の意図を原子力安全・保安院が示している。今まで補修/保全に関する科学的検討への注目のされ方が原子力は少なかったなという感じがする。飛行機における損傷許容限度等の信頼性検討の問題に比較して、メンテナンスのあり方がだいぶ違う。今はそういう声を出すのはおそらくできないのかもしれないが、必ずそういう状態になってくると思う。保全のあり方においては、石川島播磨重工業は長い歴史の中でデータの蓄積があるが、そういうものが今後の原子力の安全の上で、保全をし、効率化をしていく上での非常に大切なデータだと思う。そういう面では、原子力の安全を維持し、続けていき、向上させていく発想を今後持って頂けるとありがたい。そういうことが、今後の日本の原子力安全の信頼性を高め、社会の信頼と安心を得ることが出来るからである。

現場観察状況を確認する
オブザーバー(中央)
レビューの講評をされる
オブザーバー(手前左から3人目)

4.オブザーバー:黒田 勲(くろだ いさお)氏

(1) 参加ピアレビュー(レビュー対象)
    第26回ピアレビュー(石川島播磨重工業(株)横浜事業所)

(2) 参加スケジュール
    2002年10月30日から11月1日のレビュー期間中の内
    30、31日の二日間

(3) プロフィール

  ・職   業:日本ヒューマンファクター研究所 所長

  ・主なご経歴: 北海道大学医学部卒業
           医学博士
           元航空自衛隊航空医学実験隊隊長
           航空運航システム研究会会長
           元日本航空特別講師
           元早稲田大学人間科学部教授
           元薬害等再発防止システムに関する研究メンバー座長

  ・著   書: 「翔んでる医学」
          「ヒューマンファクターを探る」
          「安全文化の創造へ」など多数

  ・受   賞: 米国航空宇宙医学会賞(1981年)
          中央労働災害防止協会顕功賞(1991年)
          運輸大臣表彰(1992年)
          日本航空協会航空功績賞(1996年)
          勳三等瑞宝章(1997年)
          国土交通大臣特別表彰(2002年)

以上





【用語解説】 

・スリーマイルアイランド事故:アメリカのペンシルバニア州スリーマイルアイランド原子力発電所2号炉(加圧水型軽水炉、959MW)で、1979年3月28日に発生した事故のこと。

・もんじゅ:核燃料サイクル開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」。1995年12月8日2次冷却系配管からナトリウムが漏えいする事故が発生。

・アドバイサリー・グループ:「もんじゅ」での事故後、核燃料サイクル開発機構が安全総点検を進めるにあたって、同機構の考え方だけに片寄らない様にするために、原子力分野だけでなく、ナトリウム取扱技術や、品質保証、さらに社会科学など、外部有識者により構成されたグループ

・デュポン:アメリカの総合化学会社。総合化学工業メーカーとしては世界最大規模。

・シュラウド:沸騰水型軽水炉の炉心支持構造物の一つで、炉心部を構成する燃料集合体や制御棒を内部に収容する円筒状の構造物。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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