(2) 労働安全について
労働安全についても大変すばらしい労働安全システムである。そのすばらしさは自律的に現場の人達が実施しているシステムに発展させている点だ。その成果もすばらしい。
労働災害については、現場で一生懸命にやると、こういうふうになるんだなぁと思ったのは、デュポン の労働安全のシステムの中に"STOP"という訓練システムがある。これはSafety Training and Observation Programの略であるが、"労働安全は作業現場を教育の場としてやらなければならない"と今日の話にあったが、これはObservation Programに一致すると思った。石川島播磨重工業は大変すばらしい安全の成績を維持しており、現場の人達の努力を大変尊敬する。
(3) 教育訓練・技術伝承について
教育訓練や技術伝承についてであるが、教育訓練も言葉自体が走る癖がある。教育訓練の枠組みを作ると教育訓練ができているような幻想に陥ってしまうが、教育訓練の一番大切なことはその成果がどういう形で現れてくるかであると思う。その意味では、ホストの石川島播磨重工業の教育体系はすばらしいと思う。
特にすばらしいと思ったことは、技術伝承の中に出てくる専門家リストである。これはこれからの技術の流れの中になくてはならない"匠"、"名人"の技術をどうやって伝承していくかが大事だが、日本では余り大事にしていない。そういう点においては、大変高い技術、技能を1つの手がかりとして高い水準へのレベルアップが要求されていくであろう。技術の伝承では専門家を残していくことが大切だと思う。石川島播磨重工業がそういうところに着目してシステムの中に伝承の形を作っていることに感銘を受けた。
3.全体を通しての感想
(1) 倫理の問題について
日本の中には言葉が走っていく癖があるが、"安全"、"安全文化"、今問題になっている"倫理"もその一つと思う。安全の考え方は大きく変わってきているのではないかと思う。"企業内、あるいは技術的安全"からもっと次元の大きな"社会的な問題としての安全のあり方"が今大きく問われていると思う。原子力安全の問題を、非常に厳しい風の中でどう解決していくかが迫られているおおもとのところで、"社会の安全文化に対する希求"が全く変わってきていると思う。その面で安全という言葉の持っている広さ、次元が大きく変わってきている気がする。
倫理は著しくその国の精神風土に根ざすもので、借り物ではないと思う。しかし、原子力も航空もそうだが、先端技術は翻訳的なものを非常に尊ぶ傾向にある。特に、倫理の問題は日本人の中でどう伸ばしていくかをこれからは考えていかなければならないと思う。日本語で書く倫理の話の中にはできないのかもしれないが、横文字が多過ぎる。内部告発者、ホイッスルブローアーを日本の社会の中でどうしなければならないのか。必要だと思うが、その人達の位置付けをどうしていかなければならないかを我々の文化として考えていかないといけない。
(2) 品質管理について
品質管理の言葉のおおもとである"Quality Control"の"Quality"の中には"品"と同時に"人"が入っていると思う。そのまま訳すと本来は"質管理"である。日本では"人"質管理を怠ってきたと思う。それが今いろいろな面で噴き出してきている感じを強く持っている。今日、工場の中を見ると、"人"質をどうやってよくしていくのかに集中してきている気がする。
安全と品質と生産は全く同じ基盤の上に立っている。なぜなら、これらは人間を基礎に築き上げられているシステムだからと思う。
そういう面では、安全を支えているハードウェアや設計している人達の基盤的なところをしっかりさせないといけないと思う。そして、それが動いていく時に、重なってこなければならない"人間の管理/マネージメント"に我々は弱さを持っている。それを我々は急速に改善していかなければならないと思う。
(3) 原子力の保全
全体の問題として気になっていたのは、最近のシュラウド の問題を含めて、保全の"仕様規制"から"性能規制"へとシステムが大きく動いており、今年(2002年)の8月15日に事後保全への移行の意図を原子力安全・保安院が示している。今まで補修/保全に関する科学的検討への注目のされ方が原子力は少なかったなという感じがする。飛行機における損傷許容限度等の信頼性検討の問題に比較して、メンテナンスのあり方がだいぶ違う。今はそういう声を出すのはおそらくできないのかもしれないが、必ずそういう状態になってくると思う。保全のあり方においては、石川島播磨重工業は長い歴史の中でデータの蓄積があるが、そういうものが今後の原子力の安全の上で、保全をし、効率化をしていく上での非常に大切なデータだと思う。そういう面では、原子力の安全を維持し、続けていき、向上させていく発想を今後持って頂けるとありがたい。そういうことが、今後の日本の原子力安全の信頼性を高め、社会の信頼と安心を得ることが出来るからである。
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