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電気新聞「時評」福島第一原子力発電所~炉心状況~

平成23年4月26日
日本原子力技術協会最高顧問
石川 迪夫

 この4月から時評欄に再出筆すると約束をした直後の大災害、嫌な巡り合わせだ。天命と考え書くしかあるまい。書くべきことは多いから、副題を改めながら順次述べていく。今回は、最大関心事の炉心状況の説明から始める。

 発電所には1号から6号まで、6機のプラントがある。このうち1~3号機が運転中であった。地震を検知して自動停止し、低温停止状態に向けての冷却中、約1時間後に津波に襲われた。電源設備が冠水してモーターが使えなくなり、原子炉の冷却が不能となった。

 原子炉は停止しても崩壊熱を出す。崩壊熱とは、核分裂で誕生した放射能が出す放射線エネルギーのことだ。このエネルギーが炉心に当たって吸収され、熱に変わる。この熱量が馬鹿にならない大きさだ。

 今でも数千キロワットほどある。災害直後はこの10倍ほどもあった。熱源が放射能だから、崩壊熱は時間と共に減少するのだ。

 この崩壊熱で、冷却の停まった炉心の燃料棒温度は上昇した。高温になった燃料被覆管と蒸気の間で酸化反応が起き、その反応熱で炉心は溶融した。同時に発生した水素ガスが後の爆発に繋がった。

 溶融した炉心の、圧力、水位など炉心状況を示すパラメータは安定している。注入水によっていま小康状態を保っている模様である。

 さて、炉心の溶融状況は推定する人により異なる。政府はプラント毎に異なり20~70%の範囲と言うが、僕は炉心はほぼ全て溶融したと見ている。

 この場合、溶融炉心が圧力容器の中に残っていれば、直径4メートル高さ2メートルほどの蛤形状で、その中はセ氏2千数百度の溶融炉心が煮えたぎっている。表面は鋳物状の皮殻で、厚さは20~30センチメートルほどであろうか。皮殻の裂け目からは、蒸発してガスと化した溶融炉心(放射性物質)が、絶え間なく吐き出されている。背筋の寒くなる話だが、現実はこれに近いと想像している。

 吐き出されたガス中の放射能は、周辺の水や蒸気によって冷やされて水中に移行し、その放射能濃度を高め続けている。これが大問題、次回のテーマだ。冷却を強めて溶融炉心の固化に成功すれば、放射能の放出は止まる。だがそれには、強放射線下での難工事が必要だ。

 逆に、世間が問題とする気体放射能の放出は、沸点の低い希ガスと沃素に限られていて、既に出尽くしたと考えられる。その理由は、炉心を冷却した蒸気の温度が百十数度であるからで、沸点がこの温度以上の放射能は冷やされて水に混じる。従って、チェルノブイリのような大気圏を巻き込む大汚染にはならない。

 ここが、今回の災害についての国際原子力事故尺度を5から7に特進させた政府決定に、違和感を持つ人たちが反発する理由だ。放出量が約10分の1であることに加え、外に出た放射性核種のほとんどが沃素131と人体に無害な希ガスに限られ、チェルノブイリのように雑多で、影響の複雑な核種を含まないからだ。この反発は日本だけでなく、国際的な広がりを見せているという。

 論より証拠、各地の観測地点の放射線レベルは沃素131の半減期に従って漸減しており、今は放出時点の10分の1ほどに下がっている。苦しい避難生活を終え、希望者には帰宅を考えて然るべき時が来ている。

 ついでだが、沃素濃度が基準値を超えた牛乳やコウナゴは、バターや干物にして短い期間をおけば放射能は減衰する。僕は買って食べる。農地の汚染も重篤とは言えない。篤志農家に米を作って貰って、その毒性を調べるのも政府の仕事ではないのか。非常時における工夫が足りない。

以上