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長周期成分の地震波に対する原子力発電所の耐震設計並びに評価について関連する活動内容

2007年6月13日改1
有限責任中間法人
日本原子力技術協会

要旨

平成19年3月25日に発生した能登半島地震の際に志賀原子力発電所で観測された地震波(開放基盤面での地震波)が、一部長周期帯で、同発電所の耐震設計に用いられている基準地震動S2(設計用限界地震による)を超えていたことを受けて、同発電所の健全性の確認が進められている。

昨年9月に原子力安全委員会により改訂された「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「改訂指針」という)においては、長周期側の地震波も含め適切に考慮されることとなっており、既存の発電所に対してもこの新たな指針に基づいた耐震安全性の確認が進められている。

一般的に、地震動が長周期帯で基準地震動を上回るような大きな入力であった場合、発電所の耐震安全性の具体的確認項目の例として次のものが挙げられる。

  • 長周期構造物である排気筒施設の過大変形、座屈等
  • タンク類の貯蔵物のスロッシングによる座屈発生の有無
  • 天井クレーンの落下

一方、耐震設計には様々な安全裕度を持たせており、今回のように地震動が想定を超えたとしても、直ちに設備の損壊に繋がるものではなく、一部長周期帯で地震観測波が基準地震動S2を超えていたからといって、発電所の安全上重要な施設が共振し大きく損壊する可能性は少ないと考える。

しかしながら日本原子力技術協会は、今般の能登半島地震に鑑み、念のため長周期成分の地震波に対する発電所の健全性検討に際しては上記の点に留意されるよう要望する。

解説

1.長周期成分地震動に対する原子力発電所の挙動

一般的に原子力発電所の耐震設計上重要な施設は、軽水炉が内圧に耐える必要があるため元々厚肉で堅固な構造であること、適切に支持構造物が設置されていること、などから原則として剛構造に設計されている。このため一般的にその固有周期は短周期であり、長周期帯にある安全上重要な施設は極めて少なく限定されているのが実態である。このことは、今回のように長周期帯に大きな成分を持つ地震波が加わっても、共振し損壊する可能性がある設備が限定的であることを意味している。これらの中で長周期の地震波の影響を受けて設備の損壊が想定される事象の例には次のものがある。

  • 排気筒施設の過大変形、座屈
  • タンク類の貯蔵物のスロッシングによる座屈
  • 天井クレーンの落下

しかしながら、耐震設計には様々な安全裕度を持たせており、今回のように地震動が想定を超えたとしても、直ちに設備の損壊に繋がるものではない。この裕度の例としては、振動エネルギーの吸収の目安となる減衰定数を小さめに設定すること、材料の設計上の許容応力を破壊限界に対して小さく定めていることなどが挙げられる。

このように、一部長周期帯で地震観測波が基準地震動S2を超えていたからといって、発電所の安全上重要な施設が共振し大きく損壊する可能性は少ないと考える。

2.改訂指針における新たな基準地震動の設定

前述の改訂指針は、基準地震動設定に関して最新の技術を用いてより詳細に周辺の地質地盤や過去の地震・地震動を調査することにより、地震発生様式、地震伝搬経路、地域特性等を適切に考慮した新しい基準地震動Ssを設定することを要求している。

平成19年3月25日に発生した能登半島地震の際に志賀原子力発電所で観測された地震波において一部の長周期帯とはいえ基準地震動S2を超えたことは事実であり、今回の地震記録から得られた知見を適切に「改訂指針に照らした耐震安全性評価」に反映する必要がある。

また、今後新たに建設される発電所の耐震設計については、この改訂指針に基づき新たに設定される基準地震動Ssを用いて行なわれるため、今回のような地震についても新しい知見として適切に考慮されていくこととなる。さらに既設の発電所に対しても、原子力・安全保安院より改訂指針に基づき、既設発電所の耐震安全性を確認するよう指示がなされており、各電力はこの確認に当たってその実施計画書を原子力安全・保安院に提出、公表している。さらに各電力においては、耐震裕度を向上するため、改造工事を実施するとしている。

3.北陸電力の対応と原技協見解

北陸電力では、基準地震動S2を超過した長周期帯には安全上重要な施設がないこと、地震発生後保安規定に基づいて各施設の保安確認を実施して異常のないことを確認していること、観測波による原子炉建屋及び重要な機器・配管の評価などから施設の健全性が十分確保されていることを確認している。また、念のため長周期帯で基準地震動S2を上回る地震動を想定した計算により、長周期側の主要施設の耐震性についても確認している。さらに、工学的安全施設等の作動試験及び安全上重要な設備の機能試験については、今後適宜行っていくこととしている。

この他北陸電力では、2項で述べた改訂指針の趣旨を踏まえ、更なる安全性の向上に努める観点から志賀原子力発電所の耐震裕度向上のための工事を実施することにしており、2号機においては昨年11月に工事に着手し、1号機においても今後の定期検査にあわせ計画的に実施することとしている。

また、現在、別途「改訂指針に照らした耐震安全性評価」を進めており、その際、今回の地震に関して各種研究機関が実施している調査研究の報告も含め十分な調査を行い、新しい知見が得られれば評価に反映することとしている。

以上の点検・評価計画は、今回の能登半島地震で実際に長周期成分の地震に遭遇した事実に基づく点検と、改訂指針に基づく耐震安全性評価を区分して段階的に実施しようとするものであり、実際のプラント運用・管理と、設計基準に期待される役割を的確に捉えた妥当な計画と判断できる。

以上