平成20年7月22日
改訂2版
日本原子力技術協会
想定を上回る地震に際して発電所重要機器の健全性を評価検討するために、昨年9月に当協会内に「中越沖地震後の原子炉機器の健全性評価委員会」(主査:野本敏治 東大名誉教授)を設置し、検討を重ね、6月には中間報告書(概要版)を公開したところである。 本報告の成果の多くは東京電力㈱の点検・評価活動に用いられている。主な成果の要点は以下のとおりである。
主な成果の要点
今回は、委員会の活動状況について概要を紹介する。詳細については、当協会ホームページ掲載の報告書(概要版)[PDF:9317KB]などを参照されたい。
平成19年9月、大学、学協会などから有識者18名を委員とし、電力、重電メーカーなどの常時参加者を含め約60名の委員会を設置、おおよそ月一回のペースで、平成19年度末までに合計6回委員会を開催、各分野の専門家による活発な議論を行なった。また、委員会下部組織として、6つのワーキンググループ(以下、WG)を設置し、合計16回と高い頻度で開催した。その他、全委員による柏崎刈羽原子力発電所の視察も行い、重要機器の損傷状況等について確認した。
特に、地震荷重を受けた機器の健全性を評価する手法、判断基準に関する評価、解析・検査による機器の損傷評価手法など、原子炉機器の健全性評価について広く検討した。
判断基準の検討では、「原子力発電所耐震設計技術指針」(JEAG 4601、日本電気協会)を基にするとともに、米国の規格や既往の知見などの調査結果も参考に評価基準を検討した。また、地震荷重を受けた材料の健全性について、疲労試験によりデータを補強し、疲労強度評価を実施した。
表1:委員会に設置したワーキンググループ一覧
WG名称 | WGの主たる検討事項 |
---|---|
評価基準 | 構造健全性の評価方法、基準 |
検査 | 機器の塑性ひずみ等の検査方法 |
疲労・材料評価 | 地震を受けた材料の疲労強度評価 |
動的評価 | 動的荷重による機器の健全性評価方法 |
締結部材評価 | ボルト等の締結部材の健全性評価方法 |
高経年化 | 地震影響と併せて評価すべきプラントの経年化事象 |
委員会では、原子炉圧力バウンダリーを構成する機器・配管本体及びその支持部を主たる評価対象機器とし、点検・検査、解析からなる健全性評価フローチャートを作成して、検査手法、評価手法など健全性評価に必要とされる検討事項を洗い出し、検討を進めた。
地震応答解析結果に基づく地震荷重を受けた機器の評価として、「発生した地震に対する機器の評価」と継続使用のための「将来発生の可能性がある地震に対す る機器の評価」という観点から、「現状の健全性評価」と「将来の安全性評価」について、それぞれの評価基準となる考え方を整理した。
それぞれの評価基準に対しては、「原子力発電所耐震設計技術指針」(JEAG 4601)の許容応力状態IIIASを適用した。これは、機器・構造物の全体的な塑性変形が生じていない状態(但し局所的な塑性変形は許容)であるように 定めたものである。さらに、この基準を超えた場合でも適切なクライテリアと判断される最新の国内外の規格についても準用できることとした。
地震荷重を受けた機器の継続使用にあたっては、「現状の機器の健全性」、「将来発生の可能性がある地震に対する安全性」評価結果を基に判断することとした。
主な成果の要点
評価基準に検討結果を、「A,As(クラス1機器)の健全性検討フローチャート」にまとめた。
また、中越沖地震により原子炉機器が実際どの程度健全であったかを、より実態に即して評価することとした。即ち「設計段階における評価(想定地震に対する余裕度を含んだ評価)」ではなく、「経験した地震荷重を用いた評価手法」を検討し、解析結果と外観検査などの検査結果とを組み合せて、総合的に評価することとした。
7 号機に関する地震応答解析について、一次応力の評価に加え、疲労評価や制御棒挿入時刻に関する分析、原子炉隔離時冷却系ポンプ基礎ボルトの発生応力の評価などについて検討を行ない、解析結果では中越沖地震では機器に影響を及ぼすような損傷が生じていないことを確認した。また材料試験の結果より、中越沖地震の影響を加味しても、機器の疲労寿命は十分な裕度を有していることを確認した。
平成20年度はこれまでの検討事項に加えて、柏崎刈羽原子力発電所の基準地震動SSをベースとした、将来の安全性評価検討が本格化する。
具体的には、配管の塑性ひずみ測定評価や、ボルト等締結部材の健全性評価などの継続検討事項に加えて、機器・配管の弾塑性挙動を考慮した解析手法の適用性評価、配管の合理的な振動特性評価、原子炉圧力容器支持構造物の耐震評価など、新たな検討課題に対応することとし、建築・土木関連並びに動的振動に関する8名の有識者を加え(委員総勢26名)、①評価基準WG、②検査WG、③疲労・材料試験WG、④配管振動評価WG、⑤建屋-機器連成WGの5WGに再編成した。
今後も、専門家による忌憚ない議論を重ねつつ、様々な成果を柏崎刈羽原子力発電所の健全性評価や将来の安全性評価に適宜反映し、発電所の耐震補強工事や運転再開準備を技術支援していくとともに、関係各面への情報発信を積極的行い、相互連携に努めていくこととする。
以 上