平成20年1月9日
改訂1版
日本原子力技術協会
経済産業省 原子力安全・保安院は、新潟県中越沖地震が東京電力・柏崎刈羽原子力発電所に及ぼした具体的な影響について、その事実関係の調査を行うとともに、当該地震を踏まえた国及び原子力事業者の今後の課題と対応について取りまとめるため、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会の下に「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」(委員長:班目春樹東京大学大学院教授)を設置し、審議を進めているところである。本第12報では、その状況について紹介する。
本委員会では、以下に示す3つの下部WG等にて課題の整理・検討を進め、本委員会として報告を受けつつ審議を行っている。
小委員会・WG名 | 検 討 課 題 |
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中越沖地震における原子力施設に関する自衛消防及び情報連絡・提供に関するWG | 地震発生時の原子力事業者による自衛消防体制、情報連絡体制及び地元に対する情報提供の在り方について |
耐震・構造設計小委員会(原子力安全・保安部会傘下の既設委員会) | 新潟県中越沖地震から得られる知見を踏まえた耐震安全性の評価について |
運営管理・設備健全性評価WG | 新潟県中越沖地震発生時における原子炉の運営管理の状況と設備の健全性及び今後の対応について |
7月31日に第1回会合が開催された以降、これまで4回に亘り開催。12月19日に開催された第4回会合の状況は以下の通りであった。
項 目 | 検 討 結 果 |
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a.変圧器火災から明らかになった課題 |
・ 初期対応要員の不足 |
b.自衛消防と消防機関との役割分担 | ・ 自衛消防は、消防機関によって時間的にカバーされ難い部分を企業自らの自衛手段によって補う役割を担い、被害を最小限に抑えるための初期消火を実施 ・ 大規模な地震時等には消防機関の活動が期待できない場合が想定されるため、自衛消防は、想定される火災に自ら対応する能力を有することが必要 |
c.自衛消防体制の抜本的強化に向けた具体的方策 | ・ 初期消火体制の充実(24時間常駐、10名程度以上の初動要員確保等) ・ 消火設備の信頼性の向上(耐震性の確保、多様化・多重化 等) ・ 消防活動に不可欠な関連設備の信頼性の向上(消防機関への専用回線等の中央制御室への設置、緊急時対策室等の所定の耐震性の確保 等) ・ 消防機関と連携した実践的な訓練等の実施と検証(消火活動の計画策定とPDCAサイクルによる訓練・検証の実施 等) 等 |
項 目 | 検 討 結 果 |
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a.柏崎刈羽原子力発電所を巡る情報連絡・提供の課題 |
・ 不十分な初動対応 |
b.迅速かつ的確な情報連絡・提供に向けた具体的方策 | ・ 地元住民等に対する多様な情報を駆使した迅速な情報提供(初動時からのプレス発表、各種手段を利用した情報提供の繰り返し実施 等) ・ 表現方法の工夫等による分かり易い情報提供(生活に身近な比喩の活用、INES暫定評価の迅速な実施 等) ・ 現地を中心とした国の情報連絡・提供体制の強化(保安院幹部職員等の現地への迅速な派遣、重要な情報を自動的に収集できるシステムの構築 等) ・ 大規模な地震に備えた原子力事業者における情報通信設備や体制の整備(地震を適切に考慮した設置方法の改善、放射性物質の漏えいに対する計測・分析要員の確保 等) ・ 実践的な訓練、研修等の実施(保安院、地元自治体、事業者が連携した訓練と検証 等) |
機 能 | 結果 | 理 由 |
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a.止める | 確保 | ・ 運転中及び起動中の原子炉施設においては、「地震加速度大」によるスクラム信号の発生により、速やかに全ての制御棒が全挿入され、未臨界確認に至るまでの運転操作が適切に実施された。 ・ 停止中の原子炉施設(5、6号機)については、全ての制御棒が全挿入であり、中性子源領域モニタ等に有意な変動がないこと等、安全が確保されていた。 |
b.冷やす | 確保 | ・ 運転中の原子炉施設及び起動中の原子炉施設においては、除熱のための各系統が正常に動作しており、原子炉スクラムから冷温停止に至るまでの原子炉の減圧等の運転操作が適切に行われた。 ・ 停止中で燃料が装荷されていた5、6号機についても、除熱のための各系統が正常に動作していた。また、各号機の使用済燃料プールの除熱も正常に動作していた。 |
c.閉じ込める | 確保 | ・ 各号機において、地震発生前後の原子炉水及び使用済燃料プール水のヨウ素濃度の測定結果から、地震による燃料破損がないと判断。 ・ 原子炉圧力バウンダリ及び原子炉格納容器内の漏えいがない。 ・ 原子炉建屋オペレーションフロアを除く各エリアにおいて有意な放射線モニタの上昇がない。 ・ 原子炉建屋の負圧が維持されている。 ・ モニタリングポスト等の指示に有意な変動がない。 |
d.外部電源及び非常用D/Gによる電源機能 | 確保 | ・ 外部電源を供給する設備の耐震クラスは、一般産業と同レベルのCクラスであるが、今回のような設計基準地震動を超える地震が発生したにもかかわらず、地震直後に3系列(後に2系列)の外部電源が確保されていた。 ・ 地震後のパトロール及びその後行われた詳細点検において、耐震クラス「As」である非常用D/Gに損傷は確認されておらず、地震後の作動確認試験において当該D/Gが健全に起動したことから、仮に外部電源が喪失していたとしても、非常用D/Gによる電源が確保されていたものと判断される。 |
教訓と課題以上のとおり、「止める」「冷やす」「閉じこめる」及び「電源」の機能は確保されていたが、安全確保を更に万全なものとする観点から、以下の点を教訓として認識し対応していくことが必要
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軽微な事象の中から、他の原子力発電所においても予防処置を行うことが有益な事象の抽出のため、全ての不適合事象(3,100件)について内容の確認を行い、「止める」「冷やす」及び「閉じこめる」の各安全機能等の観点から有益な事象を抽出した。
事 象 | 事 象 の 概 要 |
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a.ホウ酸水注入系配管保温材の損傷 | ・ 重量物が地震により移動し、その部屋に敷設されていたホウ酸水注入系の配管に接触し、配管を覆っていた保温材に損傷を与えた。 ・ ホウ酸水注入系の配管には損傷はなかったものの、重量物が安全重要度の高い配管に損傷を与える可能性があった。 |
b.中越沖地震発生時の作業員の管理区域からの退域 | ・ 地震発生に伴い、作業員が管理区域から退出する際に身体汚染の有無を確認するための退出モニタが7台中、6台故障した。 ・ 地震発生時、1号機の管理区域内で作業中であった約400人の作業員に対し、管理区域からの退避指示が出された結果、作業員が使用可能な1台の退出モニタに集中した。そのため放射線管理員は、身体汚染の有無を確認する退出モニタを通さず、人身安全の観点から作業員を退出させた。 ・ 汚染が法令に定める限度以下に保たれている区域からの退域であり、結果的には、作業員の身体汚染は法令に定める表面汚染密度限度を超えていないと推定されるが、安全な場所に退避した後の汚染確認作業がなされなかった。 |
c.原子炉への燃料集合体装荷時における着座 | ・ 5号機(地震当時停止中)において、原子炉内から使用済燃料プールへの燃料取り出し作業中、燃料下部が燃料支持金具から外れていることが確認された。 ・ 原子炉へ燃料を装荷した際の記録の確認を行った結果、燃料の着座位置(鉛直方向)が他の燃料に比べ約25mm程度高いことが判明した。また、東京電力においては、各燃料の着座位置を記録しているが、その値が一定の範囲内に収まっていることの確認を実施していなかった。 |
教訓と課題他の原子力発電所においては、東京電力により公表された安全上考慮が必要と考えられる不適合事象から得られる教訓に加え、以下の点を教訓として認識し、対応していくことが必要である。
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実 施 項 目 | 要 求 事 項 |
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a.点検と解析の実施 | ・ 安全上重要な設備(重要度分類クラス1の設備、耐震重要度分類A、Asの設備、及びこれらの設備への波及的影響を考慮すべき設備)については、点検を実施するとともに、地震応答解析を実施して地震による影響を評価し、両者を合わせて総合的に健全性を評価すべき。 その際、解析の結果に応じて重点的な点検を実施する等、点検結果と解析結果を相互に関連づけて詳細に健全性について検討すべき。 ・ その他の設備については、適切な手法をもって点検を実施し、健全性を評価すべき。 |
b.点検結果及び解析結果を踏まえた設備への影響の評価の実施 | ・ 中越沖地震を受けた柏崎刈羽原子力発電所の設備健全性については、技術基準適合性の観点から、その構造について全体的な変形を弾性域に抑えること及び各設備について技術基準上要求されている機能が維持されていることが要求される。 |
点検の結果、技術基準上要求される構造、機能に 影響を及ぼす損傷の有無 |
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損傷が認められない | 損傷が認められた | ||
今回の地震における床応答を元に、現在用いられている手法により解析した結果 | 弾性状態 | 設備は健全 | 損傷の発生原因に関する調査検討を実施した上で適切な補修・取替等が必要 |
弾性状態を超える | 現実的な条件を加味した解析手法による解析や追加的な点検を実施して詳細に検討(※) |
(※)運営管理・設備健全性評価WG又は設備健全性評価サブWGにおいて健全性に関する詳細な検討を実施する必要がある
平成19年12月20日の原子力安全委員会において、以下を報告予定。
a. 自衛消防及び情報連絡・提供に関するWG報告書(案)
b. 地震発生時における柏崎刈羽原子力発電所の運営管理状況の評価結果
c. 柏崎刈羽原子力発電所の設備の健全性評価に係る基本的な方針
IAEAは、第1次調査(平成19年8月)のフォローアップとして、それ以降に得られた知見、検討状況・結果、今後の予定等に関する情報及び教訓の国際的な情報発信を目的として、第2次調査の実施を予定。具体的な内容、時期(平成20年1月下旬を軸に)について、現在、IAEAと調整中。
以 上