1. 事業概況 |
|
|
平成21年度は、全世界的に低炭素社会実現に向けた取り組みが活発となり、その切り札として原子力発電が再び注目されるようになった。米国ではTMI以降凍結していた新規発電所の建設が始まり、UAEでは新たに原子力発電の建設を決定する等新規参入国も増えている。日本でも、政府が2020年までに二酸化炭素排出量を1990年度比の25%削減を表明し、原子力発電の新規建設や稼働率の向上等が注目されている。
原子力産業界を取り巻く動きとしては、平成19年7月に新潟県中越沖地震で被災した柏崎刈羽6号機および7号機の営業運転復帰、泊3号機の営業運転開始、玄海3号機におけるプルサーマル発電の開始、新規立地である上関原子力発電所の設置許可申請が行われた。日本原子力研究開発機構「もんじゅ」は、原子力安全委員会および福井県原子力安全専門委員会の審査が終了し、平成22年5月6日に再起動した。日本原燃「再処理工場」においては、トラブル等により操業開始が平成22年10月に延期された。
当協会は、平成21年6月に、これまでの活動を総括した結果を踏まえ、「原子力産業の活性化」の実現に向けた中長期ビジョンを策定し、原子力施設における「高度な安全の追求」と「世界最高水準の運営実績の追求」の2つを自らのミッションと定めるとともに、当協会の10年後のあるべき姿(目標)を示し、さらに10年先を展望した事業構想を定めた。また、会員の自主保安活動を支援するため、基幹事業(「安全文化の推進」、「情報の収集・分析・活用」、「民間規格の整備促進」、「技術力基盤の整備」、「原子力技術者の育成・維持」)において、継続的改善を図りつつ、着実に事業活動を推進した。例えば、発電所の保全に係るノウハウやベストプラクティス等の情報共有化の基盤構築を進めるとともに、第三者機関として運転責任者判定事業の本格運用を開始した。さらに、平成21年10月には、安全技術推進室を設置し、安全技術上の課題を先取りして問題解決に繋げていく「先手管理機能の強化」に着手した。
また、個別の支援要請に対する活動として、「日本原燃 再処理事業所 特定評価(安全基盤の強化等)」、「東北電力女川原子力発電所1号機における根本原因分析に対する支援活動」、「日立GEニュークリア・エナジーにおける作業改善活動への支援活動」を行い、これらに対しては一定の評価が得られたと認識している。
さらに、JCO事故後10年を機に、安全文化醸成活動を継続・促進するためには経営トップの役割が重要であることを再認識していただくため、会員法人の経営トップを対象とし、「安全文化の更なる向上を目指して」をテーマとしたトップセミナーを開催した。
具体的な平成21年度の活動実績は次の通りである。
|
2. 事業の経過及び成果 |
|
(1) 安全文化の推進 |
|
@ |
ピアレビュー活動 |
|
|
|
平成21年度は、日本原子力発電東海第二発電所、四国電力伊方発電所、北陸電力志賀原子力発電所、日本原燃濃縮および埋設施設を対象とし、特別ピアレビューを4回実施した。また、神戸製鋼所高砂機器工場、日立造船有明工場、日本原子力研究開発機構原子力科学研究所を対象とし、ピアレビューを3回実施した。また、ピアレビュー活動をより効果的なものにするため、改善活動を支援するセミナーを2回開催し、主に「マネージメントオブザベーション」について会員間でベストプラクティスを共有するとともに、自発電所での対応策について議論を行った。 発電所の特別ピアレビュー時に見られた、運転分野における手順書の使用や放射線防護分野における年間総被ばく量等に関わる共通的課題を中心に、米国発電所を訪問しベストプラクティスの観察と意見交換を行った。 更に、シニアエンジニアの経験を反映させるとともに、ピアレビュー期間中のその他業務の円滑な運営のために、延べ11名の電力OBのシニアエンジニアをテクニカルアドバイザーとしてピアレビューに参画させた。 また、WANO東京センターとの協力関係を維持し、ピアレビュー実施計画の調整やレビューワの相互派遣等を行なった。平成21年度は、米国、カナダ、インド、台湾の国外5原子力発電所で実施されたWANOピアレビューに、延べ5名の職員が参加した。
|
|
A |
安全文化の浸透・向上活動 |
|
|
|
会員の自主的な安全文化醸成活動を外部評価の位置づけで支援する、安全文化アセスメントを実施している。平成21年度は、安全文化が規制対象となった電力会員および燃料加工メーカの会員を優先し、関西電力大飯発電所、北陸電力志賀原子力発電所およびグローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパンの事業所を対象として、現場診断を3回実施した。 現場診断の実施プロセスはほぼ確立しているが、これまで実施した現場診断の実績を踏まえた課題について、更に実効性のある支援活動になるように改善し、平成22年度以降の活動に反映する。また、設計・解析部門に対する現場診断の評価方法については、平成22年度以降の試運用を目標にして、その開発を進めた。
安全文化アセスメントのインプットとなる第3回安全文化アンケート調査を実施した。今回のアンケート調査は、31会員の事業所を対象とし、約14,000名から調査データを得た。
安全キャラバンについては、当初6事業所を対象に実施する計画であったが、関西電力大飯発電所での実施を平成22年度に延期したため、5事業所で実施した。実施に当たっては、平成19年度に活動の質の向上を図ることを目的に設置した第三者による評価委員会(主査:北村正晴東北大学名誉教授)の提言を踏まえ、事前準備の充実、各会員のニーズに沿った方法とテーマの設定、事後評価によるフィードバック等の改善を行った。
管理者セミナーについては、鉄道業界の研修施設を活用した体験型セミナーおよび航空業界で実績のある「CRM(Crew Resource Management)研修」を原子力用に改良した演習型セミナーを各1回実施した。また、安全文化醸成活動の実効性を向上させる活動の一環として、安全文化セミナーを立ち上げ、各会員の安全文化を担当する課長クラスを対象に、安全文化のプライオリティが高まっていることを認識させること、自ら行動に移すこと等を目的とし、アクションプランの策定、半年後の達成状況の自己評価およびアクションプランの見直しを行う等フォローアップを実施した。
原子力安全に関する教材として、NSネット事業部会員の職員がいつでも気軽に安全文化を学習できる「e-ラーニング教材」として、「リスクマネージメントの実践!抽出・分析編」を制作した。なお、「リスクマネージメント基礎知識編」はサーバー容量の関係から当面NSネット会員限定としているが、NSネット会員の受講終了後には「安全文化」および「ヒューマンファクター」と同様に当協会会員に公開していく。また、異業種交流会でのエッセンスをまとめた小冊子「異業種交流会のご意見を踏まえた安全文化に向けたメッセージ」を作成し配布した。
|
|
(2) 情報収集・分析・活用 |
|
@ |
共有すべき情報の提供と勧告等文書の発行 |
|
|
|
国内外の原子力発電所に関する事故・故障情報等を収集し、分析・評価を行うとともに、原子力の安全確保、信頼性に影響を及ぼす類似事象の発生防止に資するため、「勧告」、「注意」、「提言」、「通知」の文書を発行し、その実施状況をフォローしている。
平成21年度は、国内情報374件、海外情報3,331件〔INPO(米国原子力発電運転協会)、WANO(世界原子力発電事業者協会)、NRC(米国原子力規制委員会)、IAEA(国際原子力機関)〕を分析した。このうち、国内情報158件、海外情報145件について、運転情報検討会を通じて電力会員に共有すべき情報として提供した。
また、分析の結果、提言文書1件「安全系配管におけるガス蓄積防止のための運用・保守管理(H21.8.31)」を電力会員に対して発行した。これまで発行した文書については、文書の概要をホームページに掲載するとともに、半期毎に電力会員の検討・実施状況を調査し、その集約結果もホームページに掲載している。
|
|
A |
ニューシアの活用、充実 |
|
|
|
ニューシアに登録された平成21年度に発生したトラブル情報等は352件で、累計は4,888件であった。これらの情報の内、他プラントへの水平展開が必要な情報のスクリーニングを行うとともに、電力会員各社の登録状況や水平展開の実施状況を定期的に確認し、ホームページに掲載するとともに各社の社長および発電所長へ報告した。また、会員によるニューシアを含めた運転経験情報の有効活用を促進するため、各社の本店および発電所を訪問し理解活動および意見交換を実施した。
なお、ニューシアについては、登録情報の活用に関する利便性の改善等を目的として、平成22年5月31日に設備を更新した。
|
|
B |
電力会員の自主保安体制推進の支援 |
|
|
|
電力会員の保安検査、定期検査、安全管理審査に係る保安情報については、保安情報データベースシステムにて収集・一元管理を行っている。発電所の品質保証体制の充実を支援するため、収集された保安情報の共有化を図るとともに、これらの情報を横断的に分析・評価し、電力会員参加の自主保安体制推進会議等でフィードバックした。
また、電力会員が品質保証活動を行っていく上での共通課題である「実効性のあるマネジメントレビューの在り方」および「原子力安全達成のための品質目標の設定」について、WG活動の成果を取りまとめた。さらに、「原子力発電所の安全のための品質保証」(JEAC4111-2009)で要求されている「プロセスの監視および測定」および「データの分析」の実効的な実施方法について検討するためWGを立ち上げた。
|
|
C |
RCA(根本原因分析)の推進支援 |
|
|
|
電力会員等における社内でのRCA実施および普及推進の核となる人材を育成するため、RCA研修会(RCA手法の講義、事例演習、海外等過去事例の討議等を延べ5日間で実施)を1回実施し、46名を養成した。また、電力会員の分析能力の向上のために各会員が実施したRCA結果を相互に発表し、意見交換を行うRCA事例検討会を2回実施した。検討会ではRCA研修会の講師にも参加いただき、分析結果に対する指導を受けた。
当協会会員のうちメーカおよび電力協力企業を主な対象として、RCAの理解促進と分析者の育成を目的にRCAの導入研修会を新たに実施することとし、平成21年度は2回開催した。
さらに、複数の類似事象から共通的な問題を抽出し解決する集積RCAについて検討を開始した。
|
|
D |
PI(パフォーマンス指標)等の活用の検討 |
|
|
|
民間PIであるWANO-PIについては、継続的にデータの収集・分析を行い、ピアレビューの前に、世界水準からみた日本のプラントの状況を把握すること等に活用した。また、PIインデックスにより電力会員の各発電所の運営実績について評価し、各社社長および発電所長へ評価結果を報告した。
規制が行なう保安活動総合評価制度については、平成21年度から試運用が開始される予定であったが、制度の検討が終わらなかったことから、平成22年度から試運用を実施するよう計画が変更された。平成21年度は平成20年度から引き続き規制当局のPI/SDP※評価検討会等に参画し、科学的かつ合理的なPI/SDP評価手法を取り入れた制度になるよう検討を行うとともに、総合評価の試運用における問題点の抽出やPI/SDPの在り方について検討した。
※ PI評価:安全実績指標評価、 SDP評価:安全重要度評価
|
|
E |
ヒューマンエラー分析 |
|
|
|
ニューシアに登録されたトラブル情報をヒューマンファクターの観点から分析し、トラブルの発生要因を抽出し、電力会員の活動を支援した。
また、電力中央研究所ヒューマンファクター研究センターが行なっていた安全啓発資料(Caution Report)作成業務を引き継ぎ、トラブル事例のヒューマンエラー分析および安全啓発資料のコンセプト等について検討を開始した。
|
|
F |
INPO,WANO等との連携活動 |
|
|
|
INPOとは、常時ウェブサイトから情報入手するとともに、駐在エンジニア等を通じて情報交換を行っている。また、関西電力原子力事業本部で「火災防護」をテーマに技術交換訪問を実施した(H21.12.9〜11)。
WANOには、平成21年度に軽微な情報も含め123件の国内情報を投稿し、国際レベルでの情報共有活動にも積極的に対応した(平成20年度は167件)。また、CEO会議等に招聘され、今後の国際協力の在り方に対する議論に参画する等、WANOとの連携強化および当協会の理解活動に努めた。
平成22年1月には、EDFと「原子力発電所トラブル情報に関する情報交換協定」を締結し、運転経験情報の交換を開始した。
更に、原子力安全基盤機構(JNES)との情報交換会を定期的に開催し、トラブル情報等に対する意見交換を進めるとともに、重要事象に対しては当協会の技術的見解を提示する等、科学的・合理的な課題対応を目指した活動を実施している。
|
|
(3) 民間規格の整備促進 |
|
@ |
民間規格の整備促進 |
|
|
|
当協会は、原子力の課題に基づいて優先的に整備すべき規格分野を体系的に整理し、5ヵ年計画を策定することとしており、平成21年度も5ヵ年計画を最新の知見、情勢を踏まえてローリングし、優先度の高いものから重点的に民間規格制定活動を支援した。
原子力産業界において早急な対応が必要とされている課題として、中越沖地震における教訓事項を受けた耐震関係の規格類の整備、運転中保全実施前のリスク評価、保全活動における機器の重要度判断等のリスク情報の実用化に対応した規格類の整備および廃棄物分野における低レベル廃棄物に係る規格の体系的な整備がある。当協会は、これらを優先的課題として民間規格整備支援を進めるとともに、在籍する職員の個々の専門性を活かせる分野では、学協会での規格審議組織の幹事等の役割を担い、学協会の規格制定活動における主体的役割を高めた。
具体的には、プラント関係の規格58(20年度:45)、サイクル・廃棄物関係の規格10(同11)の計68の規格(同56)について、調査、素案作成、学協会審議等の規格整備に係る原子力産業界の専門家支援を行った。このうち、学協会での審議素材として、30の規格素案を作成した。また、分科会等において当協会の職員が主査・幹事を務め、審議促進に努めている。
|
|
A |
構造関係規格業務 |
|
|
|
日本機械学会での「設計・建設規格」、「維持規格」、「溶接規格」等は、1年毎の定期的改訂が軌道にのり、性能規定化された省令62号を受けた詳細規程となる民間規格として、重要な位置を占めるようになってきているが、これらの規格の改訂素案を作成し、日本機械学会に提案した。また、定期改定以外でも、「発電用原子力設備規格 環境疲労評価手法」の改訂素案を提案し、平成22年2月に発行される等、規格制定の促進に貢献している。一方、日本電気協会でも、各種の規程、指針が一定の期間毎に改訂されて出版されるが、主に、高経年化対応での検査、評価技術等の技術規程等の規格改訂素案を作成し、日本電気協会に提案した。これら素案提案の成果として、「原子力発電用機器における渦電流探傷試験指針」が平成22年3月に発行されたこと等が挙げられる。
日本の構造の規格の基礎となるASME動向調査に関しては、電力会員および当協会の職員が定例会議に出席して改定動向を調査したほか、産業界からの出席者による情報交換会を主催し、情報共有を進めた。また、学協会における認証制度や技術士活用について検討を進めるため、ドイツ、フランスにおける公的資格者・公的機関の活用に関する調査を行った。
原技協ガイドラインについては、当協会内に設置した炉内構造等点検評価ガイドライン検討会(委員長:野本敏治東京大学名誉教授)を引き続き開催し、炉内構造物点検ガイドラインを3件制定した。また、非凝縮性ガス対応技術検討会(委員長:班目春樹東大教授)においてガイドラインを1件制定した。
電気・計装関連では、火災防護指針を中心として、ヒューマンマシンインターフェース、安全保護系へのデジタル計算機の適用等の電気協会規程・指針の制定を支援した。 |
|
B |
安全設計・安全評価関係規格関連業務 |
|
|
|
運転中保全前のリスク評価、保全活動における機器の重要度判断等のリスク情報の実用化に対応した規格類の整備については、当協会が素案を作成し審議を促進したPSA(Probabilistic Safety Assessment)用パラメータ標準が原子力学会で平成21年度に制定された。リスク情報活用標準、停止時PSA標準も平成22年度初めに制定される予定である。また、当協会のPSAピアレビューガイドラインについては、それに基づきBWRのパイロットプラントでピアレビューを行い、同ガイドラインへの反映事項を抽出した。さらに、機器故障率についてNUCIAのデータを活用した国内一般故障率を公表した。
原子力学会の高経年化対策実施基準については、当協会が中心になって、高経年化対策評価が終了した5プラントから新たな知見を抽出し、同実施基準の中の劣化メカニズムまとめ表の更新案を提案し、改定された。
運用管理関係では、当協会が素案を提供した原子力学会の定期安全レビュー実施基準が平成21年度に制定され、近々、国の技術評価が纏まる予定である。また、同じく素案を提供した中央制御室の居住性のうち被ばく評価にかかる日本電気協会の規程が制定された。
|
|
C |
低レベル廃棄物関係規格関連業務 |
|
|
|
廃棄物分野における低レベル廃棄物に係る規格の体系的な整備については、余裕深度処分(L1)関連標準素案作成を優先的に進め、L1安全評価方法標準、B型輸送容器設計検査・点検基準標準を平成20年度に制定支援したのに続き、平成21年度にはL1廃棄体製作基本要件標準の制定支援、L1放射能濃度決定方法標準、L1、L2、L3埋設後管理標準の素案を作成し、これらは公衆審査段階に進んでいる。また、L1、L2、L3施設検査の3標準についても素案を作成し、これらも標準委員会書面投票段階となった。 |
|
D |
廃止措置関係規格の制定支援 |
|
|
|
既存の民間規格である「廃止措置の計画と実施」のうち、平成21年度に実施部分と切り離して改定された計画部分については、分科会委員として制定支援した。また、残された実施部分の改定、耐震安全等の下部規定の素案作成に資するべく、今後必要とされる廃止措置関係規格のロードマップを作成し、耐震安全、火災防護に関する供用中の指針類の廃止措置への適用性を調査した。 |
|
E |
学協会技術開発ロードマップ策定作業への参画 |
|
|
|
学協会で進めつつある原子力分野における技術的課題の研究開発および規格制定に関するロードマップ策定に参画し、産業界の規格制定ニーズを反映するとともに、産業界の規格制定中期計画への反映を進めた。具体的には以下のような活動を実施した。 |
|
|
|
@) |
各種研究結果を踏まえて、具体的な規格基準の作成につなげるために関連研究のロードマップに関して電気事業連合会、電力中央研究所と打合せを行い、今後の連携について協議した。 |
A) |
日本機械学会で取り組みを開始したロードマップ作成のタスクに参加して、ロードマップの策定について支援している。 |
B) |
日本原子力学会における高経年化対応技術戦略マップ、燃料高度化技術戦略マップ、熱水力安全評価ロードマップ策定、水化学ロードマップのローリングに参画し支援している。 |
|
|
F |
中越沖地震後の原子力機器の健全性評価委員会 |
|
|
|
平成19年7月の中越沖地震に対応して設置した「中越沖地震後の原子力機器の健全性評価委員会(主査:野本敏治東京大学名誉教授)」では、幅広い学識経験者の協力を得て検討を進めた結果、当初の課題であった点検と解析の組合せによる健全性評価の枠組み、疲労寿命の評価、塑性ひずみ測定、締結部材の点検・評価、原子炉圧力容器基礎部への弾塑性解析手法適用等の成果が、東京電力による健全性評価報告や国の様々な審議プロセスの中で活用されたことから、委員会当初の目的は着実に達成されつつある。
平成21年度は、3回の委員会開催に加えて、傘下のWG(評価基準WG、検査WG、疲労・材料試験WG、配管振動評価WG、建屋−機器連成WG)を計15回開催し、ABWR(6、7号機)での評価結果をBWR5型プラント(1〜5号機)へ展開する際の設計上の相違点に起因する課題等に取り組み、関連学協会等との連係を深めつつ情報発信に努めてきた。
また、個別技術成果の体系化・一般化を推進し、民間自主ガイドラインの形態に整備することにより関係者の利便性を高めることとし、地震動の大きさと損傷の状態に応じて点検・評価方法を定め、プラント再起動への合理的な対応を可能とするためのガイドラインの素案作成に取り組んだ。
これらの成果は、一昨年、昨年に引き続き、平成21年度中間報告書として平成22年5月に公開した。
|
|
(4)
技術力基盤の整備 |
|
@ |
電力共通技術基盤の整備 |
|
|
|
平成20年度末をもって、電力共通技術基盤に係る電事連から当協会への業務の移管は完了した。当協会は、平成21年4月、電力共通技術基盤をステアリングするため、電力共通技術基盤推進委員会および電力共通保全基盤検討会を設置した。また、基盤検討会傘下に現場技術者ネットワークとして4つの会議体とユーザーズ支援組織を設置し、これらの関係会議体の運営を開始するとともに、平成21年度末までに概ね基盤活動のPDCAを2サイクル回した。
情報ライブラリは、情報管理に係る覚書に基づき、保全計画書等の新検査制度に係る許認可図書をベースとした基盤情報の事業者間の共有化を計画通り推進した。また、情報ライブラリのシステム化準備検討についても、計画通り検討を進めた。
現場技術者ネットワーク活動については、経年劣化判定会議、エキスパート会議、ベンチマーク支援検討会、保全活動管理指標(PC)連絡会、RCM-CBMUG等の会議体を計画通り立ち上げ、運営要領を策定し、基盤活動を展開した。その成果は、劣化メカニズム整理表改定案、ベンチマーク支援情報等多くの保全最適化に係る基盤情報として現場技術者に提供した。また、エキスパート会議等と併設した情報交換の場では、保全最適化の現場におけるRCMや状態監視技術に係るノウハウ等について積極的な意見交換を行い、現場技術者間の情報共有の活性化を促進した。
|
|
(5)
原子力技術者の育成・維持 |
|
@ |
運転責任者判定業務 |
|
|
|
原子力安全・保安院の「運転責任者に関する判定の方法、実施体制等についての確認に関する指針(内規)」が改正され、平成20年度末には、外部機関の判定を可能とした合否判定規程について、電力会員は経済産業大臣の確認を受けた。これにより、平成21年度から当協会が運転責任者判定業務を実施することとなったことから、運転責任者諮問委員会、運営委員会等の運営を通して、制度の透明性、客観性を確保しつつ、4回の判定業務を実施した。合格者は、平成22年3月31日現在で、新規48名、更新104名であった。
|
|
A |
保全技量認定制度の導入促進 |
|
|
|
いては、平成22年度下期からの本格運用を目指し、平成21年度下期から試運用を開始した。また、試運用の開始に当たり、試験問題の作成および認定者情報管理システムの作成を進めた。
|
|
B |
原子力アカデミーの創設 |
|
|
|
原子力に携わる技術者の育成・維持を目的に、原子力アカデミーを創設している。平成21年9月には、原子炉主任技術者等の原子力発電所の上級管理職を対象として、講義・演習を通じて原子力安全に関する知見の深耕を図る「原子力安全セミナー」を開催した。また平成22年度から「運転員チームワーク向上訓練」を新たに実施するため、試運用として同訓練を4回実施した。
|
|
(6)
先手管理課題への対応 |
|
|
|
民間の主導のもと安全技術上の課題を先取りし、問題解決に繋げていく「先手管理機能の強化」に向けた仕組み作りと先手管理すべき課題の抽出を進めている。平成21年度は、高度な専門知識と経験を有する協会内の専門家で構成する「先手管理課題検討会」を7月に設置し、課題の抽出を進めるとともに、10月には、その推進の中核となる安全技術推進室を設置した。
課題抽出の主な情報源は、「事故・トラブル情報」、「米国・国内の規制活動情報」および「規格基準策定動向」で、これまでに先手管理すべきとしてリストアップした課題は35件である。また、リストアップした課題を、国内外の安全問題に係る検討情報(米国NEIの戦略的規制リスク課題等)と突き合せし、現在のところ、追加してリストアップすべき課題が無いことを確認した。
リストアップした課題のうち、平成21年度に先手管理すべきとした課題は、「火災防護対策」、「重量物管理問題」、「埋設配管劣化問題」等である。
「火災防護対策」では、自主保安対応能力を高め、火災防護対策をより充実させることを目的に、協会内に事業者およびメーカからなる「火災防護展開WG」を設置し、定量的な火災防護評価を行う火災ハザード評価手法の検討、各社の火災防護担当者による事業者相互確認、持込み可燃物に関する管理レベルの策定等を実施した。また、「重量物管理問題」では、我が国の重量物クレーンの安全装置等を調査し、米国NRCが規制問題要約文書で求めているものと同等の安全裕度を有していることを確認した。また、より安全を高めるため、安全装置のうちヒューマンエラーに対する安全性向上の観点から、「巻過防止装置」の多重化・多様化を提言した。「埋設配管劣化問題」については、米国における民間側の取り組み状況を調査した。
|
|
(7)
組織横断的活動による取り組み |
|
|
|
これまで当協会が事業を進めていく中で、組織横断的活動による当協会の技術力の有効活用を試みてきた。定期的な活動としては、事故・故障情報等に対する分析・評価におけるスクリーニングや、中越沖地震対応の定期的フォローアップをホームページに掲載する等に取り組んできた。
また、非定期的な活動としては、会員からの要請を踏まえて以下に示す特別な活動を行う等、部門を越えたタスクチームを設置し支援を行った。
|
|
@ |
日本原燃 再処理事業所 特定評価(安全基盤の強化等) |
|
|
|
日本原燃では、平成21年1月21日に高レベル廃液ガラス固化建屋固化セル内で「高レベル廃液の漏えい」事象が発生した。この事象に鑑み、日本原燃から当協会に対して、「安全基盤の強化等に関する特定評価」の実施について要請があったことから、平成21年5月から7月にかけて、日本原燃の対策案に対して、より実効性を高めるための助言をするとともに、今後日本原燃が取り組むべき改善要望事項について提言した。
|
|
A |
日立GEニュークリア・エナジーにおける作業改善活動への支援活動 |
|
|
|
日立製作所および日立GEニュークリア・エナジーから当協会に対して、「原子力発電所における焼鈍作業に係る記録改ざん」に関わる再発防止対策の実施状況について、第三者的な確認による客観的評価の要請があったことから、平成21年6月から8月にかけて評価を実施した。その結果、再発防止対策はいずれも有効であることを確認するとともに、再発防止対策をより有効に機能させるために、助言事項を取りまとめた。 |
|
B |
東北電力女川原子力発電所1号機における根本原因分析に対する支援活動 |
|
|
|
東北電力は、女川原子力発電所1号機の定期検査中にヒューマンエラーによる3件の不適合事象が短期間に発生したことから、各事象に共通する根本原因を抽出し、組織的な再発防止を図ることにより、品質保証活動の一層の充実を図ることとした。その過程において、当協会に根本原因分析の支援について要請があったことから、平成21年5月から11月にかけて、第三者的立場から、根本原因分析やヒューマンファクターに関する視点からの助言を実施した。さらに再発防止対策に基づく具体的な行動計画について、当協会が有する経験・知見に基づく評価および助言を実施した。
|
|
(7)
広報・情報発信活動 |
|
@ |
トップセミナー等 |
|
|
|
JCO事故後10年を機に、安全文化醸成活動を継続・促進するためには経営トップの役割が重要であることを再認識していただくため、平成21年11月10日、東京において、会員法人の経営トップを対象とした「トップセミナー」を開催した。テーマは、「安全文化の更なる向上を目指して」とし、会員から148名が出席した。
また、当協会活動に対する会員の理解促進および会員からのニーズを発掘するため、平成22年3月に名古屋において「技術セミナー」を開催し、原子力をめぐる情勢と今後の課題、保全技量認定制度、安全文化醸成活動等について紹介するとともに意見交換を実施した。
|
|
A |
外部委員会への参画 |
|
|
|
原子力の安全規制に係る横断的な課題について議論する基本政策小委員会に参画した。また、原子力部会に参画し、原子力発電推進強化策の対応として、原子力発電所の設備利用率低迷の原因について分析結果を提示するとともに、設備利用率向上のための取り組みについて、事業者および国へ提言した。
|
|
B |
マスメディア等への対応 |
|
|
|
当協会の活動および原子力をめぐる課題を理解していただくため、平成20年度に引き続き「中越沖地震後の原子力機器の健全性評価委員会」の活動状況等をテーマに「記者懇談会」を開催した。
また、会員のみならず、一般公衆およびマスメディアに正確な情報を伝えることが重要なため、平成21年10月に放送されたNHKスペシャル「原発解体」の番組内容に対する当協会の見解および事実関係の誤りを指摘した意見書をNHKに送付するとともに、その内容をホームページに掲載した。
|
|
C |
ホームページ、メールマガジン等の活動 |
|
|
|
会員に対しては、各事業の活動成果をホームページで紹介するとともに、メールマガジンやNSネットニュースの発行等の情報提供を実施した。
また、ホームページを改訂した際には、メールにより登録会員に改訂内容を通知するサービスの運用を開始した。
さらに、ホームページへのアクセス利便性改善のため、トップページに会員窓口を設置した。
|
|
(9)
国内関係団体及び海外機関との連携
|
|
@ |
原子力産業団体におけるトップの懇談会 |
|
|
|
原子力産業界各団体の連携強化および機能向上のため、電気事業連合会、電力中央研究所、日本原子力産業協会、日本原子力技術協会等のトップ同士が、政策・規制課題に関わる情報共有や改善の方向性について意見交換を行うトップの懇談会が設置された。平成21年度は、懇談会が2回開催され、国際関係や原子力発電所の稼働率向上等の議論を実施した。
|
|
A |
電力中央研究所との意見交換 |
|
|
|
電力中央研究所とは、原子力発電および核燃料サイクル事業の発展に資するため、技術協力に関する技術協力協定を締結し、平成21年10月に技術協力会議を開催し、電力中央研究所による研究開発を通じて行う技術協力の進捗状況等を確認した。
|
|
B |
海外の団体との連携 |
|
|
|
米国NRC主催の規制情報会議等に参加し、海外の原子力安全動向について継続して調査した。
|
|
(10)
中長期ビジョンの策定
|
|
|
|
当協会設立から4年が経過したことから、これまでの活動を総括し、その結果を踏まえ、「原子力産業の活性化」の実現に向けた中長期ビジョンを、平成21年6月に策定した。中長期ビジョンでは、原子力施設における「高度な安全の追求」と「世界最高水準の運営実績の追求」を自らのミッションと定めるとともに、当協会の10年後のあるべき姿(目標)を示し、さらに10年先を展望した事業構想を定めた。また、これらの目標を達成するため、今後5年間に取り組むべき活動を掲げ、その取り組みに当たりロードマップを策定し、平成21年7月以降、ロードマップに基づき業務を実施した。
中長期ビジョンを実現するためには、会員にビジョンについて理解していただくとともに会員と力を合わせて活動すること(協働)が必要不可欠である。このため、平成21年10月から、特に事業活動に関係の深い電力会員等の本店および発電所を訪問し、中長期ビジョン、協働に当たってのお願い事項等を説明するとともに、当協会への要望事項等について意見交換を実施した。
|
|
(11)
理事、顧問の選任・辞任について |
|
|
|
平成21年6月18日、定時社員総会において、五十嵐安治理事、諸岡雅俊理事、横山速一理事、大山潤一監事、野中洋一監事を選任した。また、同日、理事会において、石川迪夫最高顧問を再任した。
|
|
(12)
組織改編について
|
|
|
|
安全技術上の課題を先取りして問題解決に繋げていく組織として、平成21年10月に安全技術推進室を設置した。
|
3.
法人の概況 |
|
(1) 事業内容 |
|
|
|
原子力に関する下記の事業を行う。
・
安全文化の推進
・
情報の収集・分析・活用
・
民間規格の整備促進
・
技術力基盤の整備
・
原子力技術者の育成・維持
・
前各号に掲げる事業に付帯又は関連する事業
|
|
(2)
基金の拠出状況 |
|
|
|
(3)
理事及び監事 |
|
|
理事 |
|
|
藤江 孝夫
(再任) |
|
|
鈴木 康郎
(再任) |
|
|
中村 民平
(再任) |
|
|
大部 悦二 (再任) |
|
|
河島 弘明 (再任) |
|
|
百々 隆
(再任) |
|
|
成瀬 喜代士 (再任) |
|
|
五十嵐 安治(新任) |
|
|
諸岡 雅俊(新任) |
|
|
横山 速一(新任) |
|
監事 |
|
|
大山 潤一(新任) |
|
|
野中 洋一(新任) |
|
|
|
*なお、理事および監事の兼務の状況は以下の通り。 |
|
|
五十嵐 安治(株式会社東芝 執行役上席常務 電力システム社社長) |
|
|
諸岡 雅俊 (九州電力株式会社 取締役常務執行役員 原子力発電本部長)
|
|
|
横山 速一 (財団法人電力中央研究所 理事 原子力技術研究所長) |
|
|
大山 潤一 (三菱原子燃料株式会社 執行役員 東海工場副工場長 兼 経営企画室副室長) |
|
|
野中 洋一 (日本原子力発電株式会社 取締役 企画室長)
|
|
|
(4) 会員 |
|
|
|
平成21年10月13日、株式会社ティエルブイおよび株式会社ニュージェックの2会員が入会したことから、会員数は、122会員となった。
|
|
(5) 会議 |
|
@ |
定時社員総会 |
|
|
日時:H21. 6.18 第 5回 |
|
|
A |
理事会 |
|
|
日時:H21. 5.12 第27回
日時:H21. 6. 4 第28回
日時:H21. 6.18 第29回
日時:H21.10.13 第30回
日時:H22. 1.27 第31回
日時:H22. 3.25 第32回
|
|
|
B |
評議員会 |
|
|
日時:H21. 5.28 第 9回
日時:H21.12. 4 第10回
|
|
|
C |
運営委員会 |
|
|
日時:H21. 5.27 第 9回
日時:H21.12. 3 第10回
|
|
|
(6) 職員の状況 |
|
|
|
職員81名(平成22年3月31日現在)
|
以 上
|